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病理検査技師との関係に関する小委員会報告

 医療、教育、社会等からの病理への近年の要求に病理の側が高いレベルでこたえてゆくことを念頭に置いた、病理医と病理関連臨床・衛生検査技師との業務面及びhuman relationship 面での基本的関係についての論議が、近年各方面でなされてきております。また最近は、日本臨床・検査技師会から本学会に、専門技師の認定に協力を求められていることもあり、私は近年、学会として病理系技師との関係論を総合的に論議し、今日的な見解をもつことが必要であると考えています。昨年4月、企画委員会の中にアドホックの 専門小委員会(委員長中島孝評議員)を設置し、この小委員会に病理医ー病理系技師の基本的関係論について問題点の分析と論議をお願いしました。このたび本小委員会から、いわゆるPAについての現状分析と問題点の指摘を中心とした報告書をいただきましたので、ここに掲載いたします。

この報告書に指摘されている状況と問題点、さらにその背景にある医療における病理の状況,病理関連臨床・衛生検査技師との基本的関係論などは、病理領域の今後の発展のためにさらに論議が深められる事が重要と考えております。論議の深化のため小委員会の活動をあと1年継続することをこのたび理事会で認めていただきました。今回の報告をたたき台にして、本問題の深化にむけて論議が、会員間でさらに深められることを期待しています(理事長)。


「病理検査技師との関係に関する小委員会」報告

委員会構成:中島孝(委員長),坂本穆彦(企画委員会委員長),水口國雄,小野謙三,村田哲也,太田浩良,横井豊治,梅宮敏文、佐藤雄一,徳永英博

活動報告:
第一回会議:平成16年12月2日(木)13:30-15:30 於;名古屋市 国際会議場431号室
第二回会議:平成17年2月11日(金)13:00-15:40 於;東京都江戸川区船堀 コラボ産学官プラザ in Tokyo, 6階大会議室
第三回会議:平成17年4月14日(木)12:45~14:00 於;パシフィコ横浜 会議センター5階514会議室
*アメリカにおけるPA活動視察 (佐藤雄一、中島 孝):平成17年3月13日~20日

1) University of Maryland Medical System (Prof. Raymond T. Jones, Ph.D., Director Pathologists' Assistant Program)
2) Rosalind Franklin University of Medicine and Science (Dr. John E. Vitale, M.H.S., Acting Chair, Pathologists' Assistant Department, College of Health Professions)

 この「病理検査技師との関係に関する小委員会」は病理医と病理検査技師が職能集団として、より良好な関係を築くために、病理検査士制度(PAと略す)導入の是非を中心に検討することを目的として、企画委員会のad hoc小委員会として作られた。このような小委員会発足の背景には、病理職能集団としての意識の形成、医療の高度化と診断病理医不足、臨床研修義務化に伴う病理業務の拡大、技師の高学歴化などがあり、PA導入が病理医と病理検査技師との新しい関係を将来にわたって築きあげることができるか、を検討するものであった。そこで、小委員会の検討内容としては、PAの業務範囲を検討すること、他学会の認定制度との連携ならびに調整が当初考えられた。

 この委員会では最初、PAに関する病理医の意見を集約することを考えたが、学会会員全体を対象にすることは無理であり、そこで、村田委員を中心にして、PNETでの意見収集、さらに小野委員がネットを用いたアンケート調査を行なった。その結果をみると、PNETでの発言は大部分がPAに反対するものであり、その理由として,標本の下見を認めると病理診断がなし崩し的に病理医の手から離れてPAに移ってしまい,保険点数の切り下げ理由とされてしまうこと,若手病理医の研修と競合すること,切り出しも肉眼の大事な診断であることなどの理由であった。アンケート結果(92名)でも反対意見が多くあり、最終的に反対が約60%、賛成が約18%、残りは「わからない」もしくは「無回答」であった。しかし、これまでのPNET等での病理医の反応をみると、極端にいうと、PAが病理診断の一部にまで関与するといった誤った情報が流布しており、PAの業務内容や「病理における医行為」について、さらに議論を深める必要性を痛感した。企画委員会でもPAに慎重な意見があり,その内容理解に関してもさまざまであること。企画委員会からの、PAについて原点に立ち返り,病理診断現場の現状分析やPA導入の有無による利点や不利益点などを学会員に提示する必要がある、との指摘を受けて、更に検討を重ねた。

 病理医の地位低下や減少に繋がる危険性、新しい病理診断保険点数(肉眼診断)との整合性、さらには、技師側の業務拡大に対する不安など、PA導入による不利益を指摘する意見が多く出された一方、病理検査業務内容見直しや遠隔病理診断における送信側の技量保証などの利益もあることが、委員会で議論された。また、英国での報告をみると、医学生物系技術者に標本記載や切り出しなどの業務拡大を行ったところ,病理水準低下や患者への不利益などの問題は起こらず、PA導入の利点が示されており、技師の業務拡大は大学が先行して行ったことが述べられていた。「医行為」との関連でPAの業務について、さらに、検討を加えたところ、剖検は死体解剖保存法などの制約があるため,PAによる剖検執刀は法律上不可能であり、免疫染色結果の判定や,特殊染色における菌体確認等は,昭和63年の厚生省(当時)の解釈でも医行為には入らないことが確認された。しかし、組織の観察だけではなく,臓器切り出しや電子顕微鏡観察も医行為と考えている病理医が多いことも事実として上げられた。また、遠隔病理診断に関しては,実際の作動例が少ないため,今後の検討課題とすることになった。いずれにせよ,「病理医(病理専門医)の指導の下」という縛りを設け,病理検査に関する最終責任は病理医にあると決めない限り,PA導入は成り立たない、という点で全員の意見が一致した。

 他学会の認定制度との連携ならびに調整についての議論では、臨床検査技師の業務拡大なしでPAを考えると,臨床検査医学同学院の臨床病理技術者資格試験と多くの部分が重なり、同学院との差異化を図るためには,PAの業務範囲の設定が必要であるとの認識を得た。臨床検査技師と病理医がお互いにレベルアップするためにPAを認定するのも病理学会の任務であるとの意見も出された。わが国では,病理医不在施設や中小検査センターなどでは手術材料のかなりの部分が病理医以外の人によって切り出しが行われている現状があり、この領域の精度管理ならびに医療レベルをあげるという視点から,切り出しを行っている臨床検査技師にPAの資格を取って頂くことも必要との考えも出されたが、この考えは,病理医による切り出し不要など,病理医の将来の職場減少にも繋がる懸念が出された。

 病理学会国際交流委員会の協力で、平成17年3月13日~20日の約1週間、佐藤・中島両委員が米国に於けるPAの現状を視察してきた。米国のPA養成機関は現在6大学あり,このなかの2大学を訪問した。この2大学はいずれも修士コース、2年間でPA養成を行なっている。今回の視察で分かった点は、アメリカでも全ての病理がPAを受け入れている訳ではない、ということである。特に、西海岸ではPAの数も少なく、その養成機関もない。この6大学はThe National Accrediting Agency for Accreditation (NAACLS)の認証の基に、カリキュラムの標準化を行なってPA教育を行ない、PA資格認定はAmerican Society of Clinical Pathology (ASCP)が行なっている。そして、American Association of Pahologists' Assistant (AAPA)が彼らの職能団体という関係になる。PAの地位や年俸はCTより高い。彼らの仕事はさまざまであり、Medical examinerとして、法医解剖を行なっている者もいる。病理での主な仕事はマクロ所見の記載と切り出しであり、病理報告書のマクロ所見記載はPAによって書かれている。大学でのPAの仕事はTissue bankの仕事にかかわっていることが上げられる。メリーランド大学でもシカゴ大学でも、PAがTissue bankのための組織の採取、保存を行なっていた。PAは迅速診断を含めた病理診断には一切関与しておらず、病理医との仕事分担は明瞭に分けられている。PAを雇っている病理医はその利用価値を強調しており、診断業務で空いた時間は臨床とのカンファランスや教育などを行なっていた。

 日本ではCTを中心にPAを養成しようという考えがあるが、アメリカの病理医には全くそのような考え方はなく、PAとCTは全く異なる職種であるとの考え方であった。また、日本病理学会がPA資格認定を考えていることを伝えると、当然病理指導で行なうべきであるとの答えが返ってきた。

 PAに関して、今後の進め方について討議をおこなった。この委員会は時限委員会であるが、来年度もこの委員が中心となって、支部単位で交見会などを利用した公聴会活動を行って論議を深めては、の提案があった。また、項目を絞ったアンケートの実施、PAのモデル施設を作って見ては、の提案もなされたが、後者は,「まずPA導入ありき」との誤解を与える可能性もあるので注意が必要との意見も出された。今後も支部単位、病理学会総会などで、PAに関して、十分な論議と再検討が必要であると考えられた。