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第9回日本病理学会カンファレンス報告 |
世話人: 池田 栄二 (山口大学大学院医学系研究科病理形態学分野)
第9回日本病理学会カンファレンスを、2012年8月3日(金)・4日(木)、山口市湯田温泉ホテルニュータナカにて開催いたしました。参加は事前登録制としましたが、当日申し込みの2名と合わせて103名のご参加をいただきました。また、ポスター演題も、25演題の応募があり、本カンファレンスの開催趣旨に合う、理想的な参加者数と演題数であったと考えております。皆様のご協力に対し、この場をお借りして御礼申し上げます。
今回のカンファレンスのテーマは、「血管細胞生物学から挑む疾患病態解析」といたしました。ご存知のとおり、病理学とは、疾患の病態解析を通じ病因を究明し難治性疾患の克服を目指した学問です。しかし、ただ"病態解析"といっても漠然としており、何らかの切り口が必要となります。その切り口としての血管生物学の有用性について議論したくプログラムを組ませていただきました。レクチャーとして、血管細胞生物学から難治性疾患の病態解析・克服に挑む研究者(非病理学会会員5名、病理学会会員5名)に最新の研究成果をご紹介いただきました(下記参照)。血管生物学が専門でない参加者にも解り易くご講演であったこともあり、多くの質疑応答をいただき、疾患病態解明戦略について有意義な議論ができたと思っております。また、一般ポスター演題としては、循環障害性疾患に限らず、がん、炎症性疾患など広い疾患病態についての内容で応募いただきました。今回のカンファレンスが、切り口は血管系であるが、広範囲の疾患の病態解析を視野に入れている趣旨と合致する演題が揃ったといえます。一般ポスター演題については、懇親会でのディスカッションに先立ち、PowerPointを使用したプレゼンテーション(1演題90秒間)をお願いいたしました。そして、招待講演者、座長、研究推進委員、日本病理学会理事長の投票により、第9回日本病理学会カンファレンス最優秀演題賞1題、第9回日本病理学会カンファレンス優秀演題賞2題を選考し表彰させていただきました。
レクチャー(*日本病理学会会員)
高倉伸幸(大阪大学微生物病研究所)
血管病において血管成熟化が示す意義
今村健志(愛媛大学大学院医学系研究科)
光技術を駆使した血管研究
鬼島 宏*(弘前大学大学院医学研究科)
腫瘍における血管新生因子の発現調節
渡部徹郎*(東京大学大学院医学系研究科)
血管・リンパ管の形成を司るシグナル・転写ネットワーク
井上克枝(山梨大学大学院医学工学総合研究部)
新規血小板活性化受容体CLEC-2のリンパ管新生における役割
石津明洋*(北海道大学大学院保健科学研究院)
血管炎の新分類と新たな発症メカニズムの提唱
田久保圭誉(慶應義塾大学医学部)
低酸素ニッチによる幹細胞制御
池田栄二*(山口大学大学院医学系研究科)
血管透過性の酸素濃度依存性調節機構
安藤譲二(獨協医科大学医学部)
血管内皮細胞による血流センシングと循環調節
石川由起雄*(東邦大学医学部)
心筋架橋による冠状動脈内血流変化と心筋梗塞の発生
1) 参加者〔103名(事前参加登録101名、当時参加登録 2名)〕の内訳について
日本病理学会会員・非会員、都道府県(所属施設)の内訳は、下記の通りです。日本病理学会会員が約7割を占めておりました(71/103: 68.3%)。山口県からの参加者が25名と最多ですが、日本全国から参加いただきました。
都道府県 | 会員 | 非会員 | 合計 |
---|---|---|---|
北海道 | 2 | 0 | 2 |
青森県 | 4 | 6 | 10 |
宮城県 | 1 | 0 | 1 |
栃木県 | 0 | 1 | 1 |
東京都 | 6 | 1 | 7 |
山梨県 | 0 | 1 | 1 |
富山県 | 2 | 0 | 2 |
愛知県 | 1 | 0 | 1 |
京都府 | 2 | 1 | 3 |
大阪府 | 5 | 1 | 6 |
兵庫県 | 3 | 1 | 4 |
奈良県 | 1 | 0 | 1 |
和歌山県 | 1 | 0 | 1 |
岡山県 | 2 | 0 | 2 |
広島県 | 8 | 0 | 8 |
山口県 | 13 | 12 | 25 |
徳島県 | 2 | 1 | 3 |
愛媛県 | 6 | 4 | 10 |
高知県 | 1 | 0 | 1 |
福岡県 | 8 | 2 | 10 |
佐賀県 | 1 | 0 | 1 |
宮崎県 | 2 | 1 | 3 |
合計 | 71 | 32 | 103 |
2) アンケート集計結果(回答数62)について
a) 性別: 男性 37、 女性 13、 未回答 12
20歳代 | 30歳代 | 40歳代 | 50歳代 | 60歳代 | 計 |
---|---|---|---|---|---|
11 | 22 | 17 | 10 | 2 | 62 |
大学関係 | 病院 | その他 | 計 |
---|---|---|---|
56 | 5 | 1 | 62 |
すごく思う | 思う | あまり思わない | 全く思わない | 分からない | 未回答 | 計 |
---|---|---|---|---|---|---|
15 | 35 | 0 | 1 | 1 | 10 | 62 |
〔全体〕 |
・テーマ、全体の構成、レクチャーの内容、ポスター発表、いずれもスマートで大変よかった。 ・若手も参加しすばらしい会だと思う ・本カンファレンスに関するより積極的な病理学会の若い人達への情報発信及び、浸透のための方策が必要かと思う ・参加者の地域が全国的に広く分布しており良かった ・非常によくオーガナイズされたカンファレンスだった ・若手が参加しやすい工夫がなんとかならないか ・低料金の参加費は続けてほしい ・様々なテーマ毎に続けてほしい ・病理学会総会におけるシンポジウムよりはるかに有意義だと思う ・山口の場所(温泉も含む)料理そして何より世話人の先生ならびにスタッフのみあんさんの隅々まで行き届いた気配りに感動した ・アットホームな感じでよかった ・宿泊ホテル内が会場ということと温泉がついていて非常に良かった ・他大学の先生方とお話させて頂くこともでき、充実した2日間だった ・寒かった(途中から大丈夫だった) ・もっと学生がいたらよかったと思った | 〔一般演題〕 |
・研究から離れて長い時間が経っていて、方法論など理解しがたいものもあったが、久しぶりに基礎研究の世界に触れたひとときだった 臨床に関連したこともあり良かった ・多面的に血管を検討できてよかったと思う ・若い人も質問しろと言われて頑張って質問した 質問できるまでしっかり理解できるように聴くのは大変だった ・ともすれば自分の専門にひきこもりがちな研究の視野が広がる ・レクチャーが多岐に渡っており勉強になった ・学会会員以外の先生、他分野の先生の話はとても刺激的で春・秋の病理学会では得られない ・世話人の先生のサイエンス、病理学への考え方が明確にわかる良い内容だった ・今回のプログラムは非常によく練られていて、外部の基礎研究者と病理の先生の病理学的視座に基づいた研究が有機的に配列されていたように感じた ・レクチャー間に休憩時間がほしかった ・非常に最先端の血管研究の講演を聴け有意義であった ・血管とひと言でいっても様々な切り口から最先端の話があり圧倒された 改めてこの分野で研究を続けていきたいと思った ・レクチャーの先生の数が多く、濃い内容だった ・病理に関わらず様々な分野の先生のお話が伺えてよかった ・学校の授業では習わなかった新しい研究などについてたくさんのことを知ることができ、とても貴重な経験となった ・分かり易い講演を聞け、とても満足している 自分も将来講演して下さった先生方の様に一流の研究者になれたらと思った ・若手WSとして、比較的若年ながら研究の最先端でご活躍されている先生のご講演がもう少しあればいいと思った ・レクチャーの先生に臨床医も1~2名いらっしゃればよいと思った ・血管生物学の幅広さ、奥深さを感じられ大変参考になった ・もっと総論をたくさん学びたい ・最先端の研究の話はやはりおもしろい ・血管成熟化や異常血管のレクチャーは興味深かった 個人的な興味としてもう少し血管の自然史、老化についての総論と、血管の老化が全身の老化や召所の疫病発生に及ぼすimpactが知りたかった ・低酸素とBBB障害、メカノバイオロジーについては今まで考えた事のないテーマであったので興味深く思った | 〔ポスター演題〕 |
・ショートプレゼンテーションは90秒と短かったため、早口となり聞きとれない部分が多かったように思う ・ショートプレゼンテーションは翌日に振り分ける等できればゆっくり聞けたかなと思う ・90sec presentationは良いと思う ・ポスター発表のdiscussionの時間を十分に確保できたら良いと思う ・ポスター演者全員に発表してもらったのでよくわかった ・休憩をもう1回入れてその間にポスターを見る時間を入れていただくとよかった ・90秒プレゼンは日本語でしてほしかった ・ショートプレゼンテーション中にチンチン連打するのは酷い |
・心血管疾患 ・肺の間質系の基礎的な話 ・腫瘍以外の増殖性疾患 ・間質性肺炎の線維増殖メカニズム ・代謝性疾患 ・マクロファージ ・老化の分子病理 ・今後の病理学が積極的に取り入れる新しいテクノロジー(3D、イメージング、光操作、タンパク質絶対定量) ・異分野融合 ・組織修復 ・変性疾患:アミロイドーシス・老化 ・変性疾患:生活習慣病(肥満・糖尿病) ・炎症と腫瘍の境界 ・分子イメージング―癌、血管、炎症 ・形態学 ・免疫病理 ・感染症 ・がん幹細胞 ・がんと代謝 ・自然免疫 ・がんの微小環境 ・上皮細胞の形態―basic researchと病態 ・癌幹細胞と病理学的関連性 ・iPSの病理学への応用 ・分子病理診断の現状と展望 ・がん幹細胞制御とそれに関わる周囲微小環境 ・脳動脈瘤 |
3) 総括
日本病理学会カンファレンス開催ガイドラインにある「100名を超えない一般参加者」に沿った規模の集会となりました。参加者に占める日本病理学会会員の割合は約70%(71/103)、20歳代・30歳代参加者は約50%(33/62、アンケート結果から)であり、「若手の病理学会会員の参加を奨励」との趣旨にもかなったと考えております。また、今回のカンファレンスでは、1日目と比べて、2日目の参加者の減少がみられませんでした。山口県湯田温泉という交通事情の悪い会場だったことが良かったとも考えられます。
レクチャーについては、非日本病理学会会員と日本病理学会会員のレクチャー内容が有機的につながるプログラムとしたこと、専門外の参加者を意識した解り易い講演であったこともあり、多くの質疑応答がなされました。若い方々からの質問も盛んでした。
一般ポスター演題も、25演題と多くの応募をいただきました。懇親会会場でのディスカッションに先立ち、口演会場にて90秒間のプレゼンテーションを行いましたが、限られた会期のなかで、全ての演題内容を把握するには有用であったと思います。
アンケート結果からも、参加者からは概ね良い評価をいただけたようですが、一般ポスター演題の発表・討論形式については、改善が必要との意見が目立ちました。一般ポスター演題の討論を懇親会にて行うプログラムにいたしましたが、実際には、十分な討論は行われておりませんでした。一般ポスター演題発表をおろそかにすることは、若者のカンファレンス離れにつながりますので、今後の重要な検討課題とすべきと考えます。
今回、手作りでしたが、カンファレンスホームページを立ち上げました。準備期間を通じ、参加登録方法、演題応募方法の掲載のみならず、プログラム、演題抄録などについても、随時情報発信を行いました。ホームページでの情報発信により、抄録集の当日配布が可能となり、経費節約にもつながりました。アクセスカウンターを設定し有用性をモニターすべきだったと反省はしておりますが、世話人側としては、大変有用であったと考えております。
レクチャー、一般ポスター演題を通じ、血管生物学・血管病理学の最新知見を集約して紹介することができ、参加者の頭の片隅に、疾患病態解析の切り口として血管生物学という選択肢を置いていただけたのではないかと思っております。
4) 今後の課題
〔日本病理学会カンファレンスの認知度〕
日本病理学会として、安井先生を中心に、今回のカンファレンスの宣伝に力を入れていただきましたが、日本病理学会カンファレンスの認知度はいまだ低いようです。アンケートの記載以外にも、複数の参加者から、「こんな興味深い集会だと知っていたら、これまでも参加していたのに」といった言葉を頂戴しました。
今回は、病理医人口が圧倒的に多い関東支部からの参加者が少なかったといえます。支部を通じた宣伝活動をより充実させる方針を検討されてはいかがでしょうか。
〔カンファレンス会場〕
北海道支部、東北支部、関東支部、中部支部からの参加者が少なかった原因としては、会場までの距離の要因も挙げられます。来年度から施行される神戸への開催地の固定は、この問題に対する一つの解決策と考えられます。しかし一方では、交通の便が悪い会場での開催が、会期を通した参加を促す(余儀なくする)ことも考慮すべき要因ではあります。
〔プログラム〕
前述の通り、一般ポスター演題の発表形式・討論方法を検討することが必要と思われます。
5) 謝辞
今回のカンファレンスにあたり、ご援助いただきました日本病理学会に感謝申し上げます。また、安井先生、小田先生をはじめとした日本病理学会研究推進委員の方々、日本病理学会事務局の方々には大変お世話になりました。そして、山口大学大学院医学系研究科病理形態学分野メンバーの献身的な協力に深謝いたします。
今後、日本病理学会カンファレンスの認知度があがり、病理学研究の発展の礎となることを祈念いたします。