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奥平雅彦先生のご逝去を悼む

mr_okuhira.jpgのサムネール画像 本学会名誉会員、北里大学名誉教授奥平雅彦先生は平成24年6月14日、肺癌のため逝去されました。心から哀惜の意を表し,ご冥福をお祈り申し上げます.享年84歳でありました。

 先生は昭和25年、東京大学付属医学専門部を卒業され、東京大学医学部病理学教室、東京監察医務院を経て、昭和47年4月北里大学医学部病理学教室に初代教授として赴任されました。この間、昭和35年7月から1年間米国オハイオ州シンシナティ大学真菌研究部およびユダヤ人病院病理部にResearch Fellow として留学されておられます。先生は内にあっては、病理学担当教授として就任されて以来21年の長きに亘って教育、研究はもとより北里大学医学部・病院の管理運営にも並々ならない貢献をされ、他方、外にあっては、数多くの大学へ出講され、人体病理学の基礎からご専門領域まで、幅広い講義を担当され、今日の病理学の発展に大きく貢献されるとともに、文部省、労働省などの各種審議会の専門委員としてもご活躍されました。
 先生のご専門領域は「内臓真菌症の病理」、「肝臓の病理」が主軸ですが、特筆すべきその一端を述べれば、わが国で初めての汎発性カンジダ症の病理解剖を行い、この年に組織された文部省科学研究費総合研究「糸状菌症」班の第1回班会議で、その剖検所見をご報告されました。また、昭和29年3月、太平洋のビキニ環礁付近で操業中にアメリカの水爆実験で被爆し、その後、白血病およびアスペルギルス症で死亡された第5福竜丸の乗組員(機関長)の病理解剖診断とその起因菌同定に大きく関わられ、病巣組織内でカンジダとアスペルギルスの両者を病理組織学的に鑑別することが可能であることを指摘されました。この事を契機に、深在性真菌症に対する認識の向上と、その病理学的研究が盛んになるきっかけとなったと言っても過言ではありません。その後、内臓真菌症の発症病理、真菌症類似小体を含む真菌症の組織学的鑑別診断、組織内真菌細胞のagingとviabilityおよび臨床経過との関連など、一連の内臓真菌症に関するご研究を重ね、そのどれもが新規の知見として高く評価されました。これらのご業績は第76回日本病理学会総会宿題報告「Opportunistic Fungus Infectionの病理」のご発表に集約されております。
 他方、先生は、肝臓病理学の第一人者としてもご活躍され、特にアルコール性肝硬変について病理学的に詳細に検索され、わが国で初めてアルコ-ル性肝硬変の存在を指摘されるとともに、アルコール性肝硬変・肝癌の病態と成因の解明を主軸とした一連のご研究を展開され、その成果は現在でも高く評価されております。
 先生は「人生、山また山」とよくおしゃっておられましたが、「現役でのお仕事をお続けになりながら、比較的淡々と闘病されておられた」と伺っております。おそらく逝かれる時のご心境は「夕ざれば、大日輪を自らが、投げうつごとく心地良きかな」であったろうと存じます。
先生のご高潔なお人柄と飽くなき真実の探究心を偲びつつ,謹んでご冥福をお祈り申し上げます。合掌

北里大学病理学
久米 光、大部 誠、三枝 信