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> 伊東信行先生のご逝去を悼む
名誉会員、伊東信行先生におかれましては平成22年10月6日にご逝去(享年81歳)されました。先生のご冥福を心からお祈りする次第です。日本病理学会を始めとし、日本癌学会、日本毒性病理学会、日本トキシコロジー学会、日本がん予防学会、日本食品化学学会、米国癌学会、米国トキシコロジー学会(SOT)など、数々の学会や研究会における伊東先生の指導的なご貢献を振り返りますと、ご逝去による損失は大変大きいものがあります。病理学分野での偉大な指導者として国内外の多くの研究者に影響を与え、また大きく育てられました。
伊東先生は1928年12月に京都にお生まれになり、1952年奈良県立医科大学を卒業され1954年同大学病理学講座助手、1961年同助教授を経て、1972年同大学附属がんセンター研究所教授に就任、1974年同研究所所長に就任されました。1974年9月には奈良時代の恩師である佐藤壽昌教授の後任として名古屋市立大学教授として着任、医学部第一病理学講座を担当され、研究と教育に全力で励まれました。また、1992年から2年間医学部長を兼務され、1994年4月定年とともに名古屋市立大学長に就任され2期6年間務められました。その間新学部の増設、教育環境の整備に尽力され、名古屋市立大学の大きな発展に寄与されました。
伊東先生の研究テーマは発がん物質の同定、発がん性検出の簡易手法の開発、臓器発がんモデルの開発、発癌過程とその機構の解明、発がんの化学予防など多岐にわたっています。これらの研究は600以上の欧文論文として発表されました。1985年に「膀胱癌の実験的研究」で高松宮妃癌研究基金学術賞を皮切りに、中日文化賞、読売東海医学、武田医学賞、日本癌学会の吉田富三賞を、さらに望月喜多司記念賞を受賞されました。また1995年には紫綬褒章を、さらに2003年には瑞宝重光章を授章されました。2005年3月にはSOTのEducation
Awardを受賞されておられます。
伊東先生の研究目標は、常にヒトの疾患を念頭に置いた動物を用いた実験的研究でした。一貫してヒトの病態を解明するための動物実験であることを強調され、毎週、病理解剖のカンファランスを1時間にわたって行い、発がん研究に於いても常にヒトの癌の発生と進展を頭に描き研究を指導されました。本邦初のアスベスト肺の剖検例を経験され、その研究が職業癌の原因と予防に発展しました。1986年仙台で開かれた第75回日本病理学会総会にて「膀胱癌
- 発生と進展並びにその修飾」と題して宿題報告をなさいました。その様子は今でもまぶたに浮かびます。伊東先生の教育に対する基本姿勢は恩師佐藤先生から受け継がれた「清く正しく温かく」という言葉を実践されたことで、先生の教えは私たち病理学分野の研究者の中で脈々と受け継がれていくと確信します。長年にわたる厳しくも暖かいご指導に感謝すると共に、心から哀悼の意を表します。
名古屋市立大学大学院医学研究科、実験病態病理学 白井智之
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