このページでは、Javascriptを使用しています
  • 日本病理学会について
  • 市民の皆さまへ
  • 専門医
  • 病理医への扉
  • 刊行物

HOME > 新着情報 > 最近の異状死(医療関連死)問題の動向について


最近の異状死(医療関連死)問題の動向について

                 理事長  森   茂郎
四学会合同ワーキンググループ病理側委員  根本 則道
四学会合同ワーキンググループ病理側委員  黒田   誠

 去る8月22日の朝日新聞のトップ記事で厚労省の、医療中の死の原因解明のための第三者検証組織設置の試みについて記載がありました。記事 は、厚労省が、明確な刑事事件ではない医療関連死症例の死因解明のため、第三者機関の設置を試案している、来年度そのための予算請求をする予定でいる、と いうものでした。多くの会員諸賢にとって、いささか唐突な部分もあるかと思いましたので、この欄を利用して、本件に関する日本病理学会の考え方、および四 学会(内科、外科、病理、法医)合同ワーキンググループ、および厚生労働省の最近の動向をご報告します。

  異状死について学会の内外で最近4年ほど論議が続いていることは、皆様ご存知のところです。その間の一連の論議の帰結として私どもは、本年2月、四学会理 事長声明という形で、医療関連死(異状死)については、警察への一律届け出でではなく、当面事件性がないと考えられる医療関連死症例に対しては第三者機関 を設置して死因の究明にあたるべきである、そしてその内容を医療の向上に積極的に反映させるべきである、という判断を示しました。これに引き続いて四学会 は本年4月以降、この声明の実現にむかってワーキンググループを設けて審議を重ねています。今回の朝日新聞の記事は、行政サイドである厚生労働省がこの声 明を重く受け止め、問題解決をはかるための第一歩として、第三者機関のモデルを実験的に施行し、これを通じて将来の在り方を考えて行こうという提案を行っ た、ということです。

 今回、厚生労働省は、数年を期限とするモデル事業として本件を試案しています。その内容については最近、理事長のところに厚生労働省担当者か ら説明があり、また、8月25日に開催された四学会ワーキンググループにおいてあらためてこの事業について厚生労働省から説明と協力要請があり、およその ところは明らかになっています。以下、その概要です。

1.省として積極的に異状死(医療関連死)の取り扱いに関する諸問題の解決に対応してゆくつもりである、
2.全国から異状死(医療関連死)に対応できる第三者機関のモデルとして5-6箇所の施設を選定し、試験的に運用した上で問題点を分析し、次につなげたい。
3.意欲のあるところに調査受け入れのモデル機関をお願いしたい。そこでは病理、法医、臨床が合同チームを作って死因を解明し、報告書を作成していただきたい。
4.現場でこれらの作業が円滑にすすむための調整、評価、全体の運営と将来構想などを考える中央組織も考えている。
5.構想の詳細は詰まっておらず、今後諸学会と連携して詰めてゆきたい。
6.この試みに対しては厚労省として概算要求し、財政的に保証した形で進めたい、
というものでした。

本件に対して病理学会は、
1.今回の厚労省の対応は、病理学会が近年問題視し、改善をもとめてきた方向に基本的に合致するので歓迎する。この試みの実現に向けて学会として協力してゆきたい。
2.本件は法医学のお手伝いではなく、わが国の医療の質的向上と、昨今問題となっている国民の医療不信を払拭するための専門領域を超えた事業である、という観点に立つ必要がある。
3.病理医にとってインセンテイブが与えられるものでなければ現場は動けない。また、経済的保証がなければ、動けない。
4.病理医が法医学をもっと知っていることが必要、逆もそのとおりである。この点我が国の現状は欧米のレベルと比べて劣っていることを認めざるを得ない。 病理専門医が法医学の基本知識を習得することに学会として尽力したい。また法医学を専攻される専門医が病理形態学をあらためて学ばれる場合の便宜を図りた い。
5.現実に都道府県単位で臨床と病理の研究体制ができている愛知、神奈川など、本プロジェクトに協力する都道府県、および調査単位を推薦する用意がある。
等の意見を申しました。

それに対しては、
1.協力を約していただき、ありがたい。
2.法医学と病理学の関係は戻って少し考えたい。
3.経済的には、剖検には一体20-25万円を考えている。また調査を担当される方には別途支払う予定である。
4.病理ー法医学の、可能な部分での相互乗り入れへの方策などは、是非よろしくお願いしたい。
というものでした。

  本件についてはその後先週末から今週にかけて、常任理事、タスクフォースメンバー(根本、黒田)、法医との連携担当理事(笹野)のあいだで論議をおこないましたが、ここでの主な指摘点は、
1.本件は我が国の病理学関係者が社会に対して持つ責任を果たす場のひとつであり、積極的に対応してゆくべきである。
2.実務である問題例の解剖については、病理部署のどこもこれに対応出来る訳ではない、可能なところもあれば、困難な事情をかかえているところもある。各単位の自発性に依拠すべきである。
3.法医との連携は、相互がお互いの専門性を理解した上でやる、すなわち相互の最も専門的部分についてはまかせる、ということでないとやれない、
というもので、この線はまもってゆきたいと考えます。

 以上が8月24日までの状況でしたが、これ踏まえて8月25日、4学会のワーキンググループがもたれ、この場で厚労省の担当官から上の構想説明があらた めてありました。参加しているメンバーは本件を重要な進歩ととらえ、その円滑な推進のための論議がありましたが、大筋を変えるものはありませんでした。

 以上が本件に関する、本日までの経過です。来年以降、いくつかの都道府県についてこのような試みが実施され、その試みを評価したうえで、異状死(医療関連死)問題についての新たな施策が厚生労働省から提案され、立法的対応がなされることが、視野にはいっています。

 日本病理学会としては、患者・家族・社会の理解の得られ、かつ我が国の医療が向上する、という形で、また現場の病理医が意欲と満足感が得られるような形での問題解決をはかることを基本的に踏まえながら、今回の試みに積極的に参加して行くべきであると考えています。

本件につきまして、ご意見をお寄せいただければ幸甚です。