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~中立的専門機関の創設に向けて~


4学会共同声明 診療行為に関連した患者死亡の届出について
~中立的専門機関の創設に向けて~

 

我が国における、いわゆる異状死の警察への届け出でについては、問題があることが各方面から指摘されており、本学会もその問題点を指摘してきました。昨年より、日本内科学会、日本外科学会、日本病理学会、日本法医学会がこの問題について協議をしてきた結果、このほど4学会でこの問題についての考え方で歩調をそろえることができ、先日共同声明を出しましたので、そ の要旨と本文を掲載いたします。なお本件は、本年6月の日本病理学会総会において、学会としての批准をお願いする予定です。

平成16年4月
(社)日本病理学会理事長 森  茂郎



診療行為に関連した患者死亡の届出について
~中立的専門機関の創設に向けて~


4学会共同声明要旨


 医療事故が社会問題化する中、医療の安全と信頼を向上させることが急務となっている。医療事故の発生・再発を予防するためには、事故原因の徹底的な解明とその対応策の確立が最も重要である。このためには、事故事例情報が医療機関等から詳細に提供されることが必要となってきており、厚生労働省は一定の医療事故情報を広く医療機関から日本医療機能評価機構内の第三者機関に報告させる制度を創設し、本年4月からスタートする。

 医療の信頼性向上のためには、患者やその家族に対する充分な情報提供を行ない、医療の透明性を高めることが重要であり、医療事故が発生した際に、患者やその家族(遺族)が事実経過を検証し、公正な情報を得る手段が担保されることが必要である。そのため医療機関から医療事故の届出を受けて、専門的知識を持つ第三者が医療内容を分析・検討し、患者や家族を含む当事者に報告する制度が求められる。一方、診療行為に関連して患者が死亡した場合、どのような事例を医師法第21条に基づき異状死として所轄警察署に届出なければならないかについて、現在明確な基準がなく、各学会が独自に指針を示すなど、臨床現場において混乱を招いてきた。

 そのため、日本内科学会・日本外科学会・日本病理学会・日本法医学会の4学会は共同で検討を重ね、厚生労働省・日本医師会・日本医療機能評価機構にもご意見を伺い、このたび別紙のとおり共同声明を公表することとした。  

 この声明では、医療の安全と信頼向上のために医療事故の届出を受けて、死体解剖を含めた諸々の分析方法を駆使し、診療経過を全般にわたり検証する第三者から成る中立的専門機関の構築を提起する。患者の死亡に診療行為が関連した可能性があるすべての場合について、このような中立的専門機関に届出を行なう制度を可及的速やかに確立したい。

 われわれ4学会はすでに医療事故の届出制度と中立的専門機関の創設に向けてワーキンググループを組織し、検討を始めている。今後、管轄省庁・地方自治体担当部局・他医療関連団体・学術団体などと連携して、この問題に取り組んでいく所存である。




診療行為に関連した患者死亡の届出について
~中立的専門機関の創設に向けて~


 医療事故が社会問題化する中、医療の安全と信頼の向上を図るための社会的システムの構築が、重要な課題として求められている。医療安全対策においては、事故の発生予防・再発防止が最大の目的であり、事故の原因を分析し、適切な対応方策を立て、それを各医療機関・医療従事者に周知徹底していくことが最も重要である。このためには、事故事例情報が医療機関等から幅広く提供されることが必要である。

 また、医療の信頼性向上のためには、事故が発生したときに、患者やその家族のみならず、社会に対しても十分な情報提供を図り、医療の透明性を高めることが重要である。そのためには、患者やその家族(遺族)が事実経過を検証し、公正な情報を得る手段が担保されることが必要である。

 このような観点から、医療事故に関して何らかの届出制度が必要であると考えられる。ただ、どのような事例を誰が、何時、何に基づいて、何処へ届ける制度が望ましいかなどについては多様な考え方があり、日本内科学会・日本外科学会・日本病理学会・日本法医学会の4学会は、共同でこの問題について検討を重ねてきた。

 とくに、診療行為に関連して患者死亡が発生した場合、どのような事例を異状死として所轄警察署に届出なければならないかを検討してきた。この問題については明確な基準がなく、臨床現場において混乱を招いているが、少なくとも判断に医学的専門性をとくに必要としない明らかに誤った医療行為や、管理上の問題により患者が死亡したことが明らかであるもの、また強く疑われる事例を警察署に届出るべきであるという点で、一致した見解に至っている。

 さて医療の過程においては、予期しない患者死亡が発生し、死因が不明であるという場合が少なからず起こる。このような場合死体解剖が行なわれ、解剖所見が得られていることが求められ、事実経過や死因の科学的で公正な検証と分析に役立つと考えられる。また、診療行為に関連して患者死亡が発生した事例では、遺族が診断名や診療行為の適切性に疑念をいだく場合も考えられる。この際にも、死体解剖による検証が行われていることが、医療従事者と遺族が事実認識を共通にし、迅速かつ適切に対応していくために重要と考えられる。

 したがって、医療の過程において予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生した場合に、何らかの届出が行われ、死体解剖が行われる制度があることが望ましいと考える。しかし、医療従事者の守秘義務、医療における過誤の判断の専門性、高度の信頼関係に基礎をおく医師患者関係の特質などを考慮すると、届出制度を統括するのは、犯罪の取扱いを主たる業務とする警察・検察機関ではなく、第三者から構成される中立的専門機関が相応しいと考えられる。このような機関は、死体解剖を含めた諸々の分析方法を駆使し、診療経過の全般にわたり検証する機能を備えた機関であることが必要である。また、届出事例に関する医療従事者の処分、義務的な届出を怠った場合の制裁のあり方、事故情報の公開のあり方などについても今後検討する必要がある。

 以上により、医療の安全と信頼の向上のためには、予期しない患者死亡が発生した場合や、診療行為に関連して患者死亡が発生したすべての場合について、中立的専門機関に届出を行なう制度を可及的速やかに確立すべきである。われわれ4学会は、管轄省庁、地方自治体の担当部局、学術団体、他の医療関連団体などと連携し、在るべき医療事故届出制度と中立的専門機関の創設を速やかに実現するため結集して努力する決意である。

平成16年2月6日
社団法人日本内科学会
理事長 藤田 敏郎

社団法人日本外科学会
会長 松田 暉

社団法人日本病理学会
理事長 森 茂郎

日本法医学会
理事長 勝又 義直