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病理業務に関わる現行制度の下で実施可能なタスク・シフト/シェアの推進についての見解 |
令和7年5月1日
会員各位
一般社団法人 日本臨床衛生検査技師会
会長 横地 常広
一般社団法人日本病理学会
理事長 小田 義直
厚生労働省の「医師の働き方改革を進めるためのタスク・シフト/シェアの推進に関する検討会」における議論を踏まえ、厚生労働省医政局長通知「現行制度の下で実施可能な範囲におけるタスク・シフト/シェアの推進について」 (医政発0930第16号、令和3年9月30日)が示された。
臨床検査技師においては、14項目が現行制度下において実施可能とされ、うち病理業務においては以下の5項目が該当する。
1.細胞診や超音波検査等の検査所見の記載
2.生検材料標本、特殊染色標本、免疫染色標本等の所見報告書の作成
3.病理診断における手術検体等の切り出し
4.画像解析システムの操作等
5.病理解剖
今般、病理業務に関わる現行制度の下で実施可能なタスク・シフト/シェアを、病理医と病理部門の臨床検査技師とが協力し、円滑に、効率的かつ積極的に推進するため、日本病理学会から委員推薦を受け設置した日本臨床衛生検査技師会「令和6・7年度タスクシフトにかかわる病理検査業務検討WG」で協議を重ねて取り纏めた見解を以下に示す。
1.細胞診や超音波検査等の検査所見の記載
細胞診検査においては、臨床検査技師(細胞検査士の有資格者であることが望ましい)が細胞診検査報告書の下書きを作成することが可能である。この場合、陰性症例の場合には、必ずしも医師の確認を行わずに、臨床検査技師(細胞検査士の有資格者であることが望ましい)のみで細胞検査報告書として発行することが可能である。一方、腫瘍など陽性症例の場合は、臨床検査技師単独でなく、医師(病理医や細胞診専門医が望ましい)が確認した上で、細胞診断報告書として報告する必要がある。
2.生検材料標本、特殊染色標本、免疫染色標本等の所見報告書の作成
生検材料標本の報告書の下書き作成は、医行為である病理診断に直結するものであり臨床検査技師への業務移管は困難である。
一方、特殊染色標本、免疫染色標本およびがん遺伝子パネル検査のための腫瘍細胞含有率算定等の報告書の下書きの作成は、病理医による診断(仮診断・暫定診断を含む)後に実施される行為であり、臨床検査技師が、病理医による最終確認を条件に、特殊染色標本の評価、免疫染色標本等の染色態度の評価、陽性細胞の計数・定量判定、あるいはがん遺伝子パネル検査のための腫瘍細胞含有率の算定に関する報告書の下書き等を作成することは可能である。なお、これら報告書の下書き等に関しては、すべての施設で一律に行うべきものではなく、病理医の指示および統括のもと、施設ごとに、病理医と臨床検査技師(認定病理検査技師であることが望ましい)との十分な協議と合意形成に基づいて行うことが推奨される。
3.病理診断における手術検体等の切り出し
手術検体等の切り出し(検体の写真撮影、組織片切り出し、カセット詰など)については、病理医との適切な連携、指示の下、検体採取や検体の取り扱い等に関する専門的な知識・技術を有する臨床検査技師が実施することが可能である。なお実施に当たっては、施設ごとに、病理医と臨床検査技師との十分な協議と合意形成のもと、あらかじめ手順書等を作成し、それに基づいて実施することが推奨される。
4.画像解析システムの操作等
病理医が指定した病理組織標本をバーチャルスライドスキャナー等でデジタル化する作業、当該デジタル画像データの提供・保管・管理、および適切にデジタル画像を記録するために必要な装置の調整、またビューワーや画像解析システムなどのソフトウエアの管理等に関しては、病理標本の保管・管理等に関する専門的な知識・技術を有する臨床検査技師が担当することが求められる。
5.病理解剖
病理解剖は、臓器摘出という一部の行為だけで完結するものではなく、体表の外観や開胸・開腹時等の医学所見をとり、全身各臓器の状況を肉眼的に詳細に観察・診断し、適切な切出しを行い、作製した顕微鏡標本を観察して総合的な診断を行うまでの一連の医行為であり、医学的に高度な専門知識が必要とされる。また、死因究明や治療効果の適正性確認を目的とした病理解剖が多くなり、病因から治療まですべてを含めて判断する必要がある。加えて、医療訴訟への社会的責任を果たす義務も生じることから、臨床検査技師による病理解剖執刀の業務移管は困難である。
【結語】
タスク・シフト/シェアを積極的かつ支障なく進めるに当たって最も重要なことは、それぞれの施設において、病理医の指示と統括のもと、病理医と臨床検査技師とが十分に協議し、合意形成を築いた上で、施設の状況を勘案して、施設毎に具体的にどの業務を移管するかについて取り決め、施設毎に手順書等を作成し実施していくことである。同時に、指示と統括を行う病理医には、臨床検査技師の適正な技術評価と同時に、臨床検査技師が知識や技術を取得するための機会を保障し、移管先の臨床検査技師に過度の負担がかからぬための十分な配慮が求められる。病理検査室内の医療安全にも配慮し、病理医と臨床検査技師が相互に信頼できる関係性を構築し、医師の働き方改革、タスク・シフト/シェアを安全にかつ過度にならない範囲で積極的に推進することが求められる。
病理医と臨床検査技師には、質の高い国民医療を実現するため、常に患者さんの存在を意識し、「相互に協調」して、精度の高い病理検査の実現と検査室の運営に当たることが強く求められている。
令和6・7年度タスクシフトにかかわる病理検査業務検討WG
<委員>
東 学
伊藤 智雄(日本病理学会)
孝橋 賢一(日本病理学会)
佐々木 毅**(日本病理学会)
白波瀬 浩幸*
古屋 周一郎
山下 和也
<委員兼担当理事>
丸山 晃二
宮原 祥子
*委員長、**副委員長