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日本テレパソロジー研究会 テレパソロジー運用ガイドライン |
平成17年11月25日
(社)日本病理学会 医療業務委員会
剖検・病理業務小委員会
日本テレパソロジー研究会から、テレパロソジー運用ガイドライン(癌の臨床 51: 721-725, 2005)が刊行されたので、日本病理学会HP上に掲載します。
日本テレパソロジー研究会 テレパソロジー運用ガイドライン
ガイドラインの必要性と目標
テレパソロジー(telepathology:
遠隔病理診断)とは、画像を中心とした病理情報を電子化し、種々の情報回線を通じて他地点に伝送し、空間的に離れた2地点、または多地点間で、狭義には病
理組織や細胞診の診断およびコンサルテーションを、広義には診断のみならず、教育、研修、学会活動など、病理の諸活動を行うことを言う。
テレパソロジーは旧厚生省の通達により、「対面診療を規定した医師法第20条との関連の問題は生じない。」とされ、既に法律的に認められた医療行為となっている。また条件付き乍ら、術中迅速遠隔病理診断に対しては保険適用が為されている。
現在までに報告された遠隔病理診断、遠隔細胞診の診断成績は、直視下の診断と較べて大きな遜色のないものであり、テレパソロジーは地域医
療に対して大きな貢献をして来たが、顕微鏡直視下の診断と較べた場合に、単位時間に処理出来る画像情報量に一定の限界が存在し、かつ使用システムによって
診断者の観察視野選択の自由度に関して一定の制限が存在することは事実である。従って、安全で有効、かつ責任の担えるシステム運用を達成する為には、適切
なテレパソロジーの機器使用とシステム運用を解説するガイドラインの作成が望まれた。
これらを踏まえて遠隔病理診断・細胞診断の実施に当たっては、対象となる患者に対して、テレパソロジーの有用性と限界について主治医から適切なインフォームドコンセントを行う必要がある。
テレパソロジー機器の性能や使用回線の伝送能力は絶えず向上するものである。また病理診断・細胞診断を巡る社会情勢も絶えず変化して行く
ものと考えられる。従ってそれら変化によってテレパソロジーシステムの運用法も絶えず影響を受けるものであるから、本ガイドラインの内容も時代変化に適合
させるべく、絶えず見直しがなされるべきものである。
総論的事項
(1) 遠隔病理診断、遠隔細胞診断は、それに参加する医療スタッフが空間的に離れていても、意思疎通良好な単一の医療チームとして機能することが求められるチーム医療である。
(2) 遠隔病理診断、遠隔細胞診断に参加する医療スタッフは、相互の良好な意思疎通をはかる為の環境を整備しておかねばならない。具体
的には速やかに応答可能な電話、ファックス、電子メイルなどの通信手段を相互に確保すること。良好な人間関係を保持することなどが含まれる。
(3) 遠隔病理診断、遠隔細胞診断に直接関与する医療スタッフとして、1)診断依頼者としての主治医、2)診断依頼側施設で標本作製および診断画像の採取・伝送を担当する病理技師、および、3)遠隔診断受諾者としての病理医(細胞診断医)が含まれる。
(4) 使用する遠隔病理診断システムが同期型の場合、あるいは非同期型であっても即時の診断応答を求める使用法を予定する場合は、遠隔診断は原則として予約確認制で実施する必要が生じ、参加する医療スタッフ全員の事前のスケジュール調整が求められる。
(5) 使用する遠隔病理診断システムが非同期型の場合、診断依頼側は診断側に対して診断・コンサルテーションの希望内容・条件を伝え、その受諾の可否を事前調整する必要がある。診断・コンサルテーションが受諾された場合、診断画像の送受信の確認が取れることが望ましい。
(6) 遠隔病理診断・細胞診断の依頼主治医は、診断の依頼にあたって、基本的患者情報、臨床情報の要約を遠隔病理診断医に伝える義務がある。
(7) 遠隔病理診断依頼施設の担当病理検査技師は、主治医の依頼と指示、および必要に応じて遠隔病理医との協議・依頼・指示のもとで、良好な標本作製を行い、遠隔診断病理医の求めに応じた画像伝送、またはシステムの起動と標本の搭載を行う。
(8) 遠隔病理診断医は、能動システム、受動システムの別に拘わらず、診断情報に不足を感じた場合には診断依頼側施設の主治医および担当病理検査技師に標本または画像の追加を求めて診断を行う。
(9) 業務としての位置付けをする遠隔病理診断・細胞診断の実施にあたっては、関係施設間、または関係者間で文書による遠隔診断・コンサルテーション委託契約を締結することが求められる。
(10) 上記契約の中には、遠隔診断関与者、その業務分担と責任、作業手順、システムの保守・管理・維持、およびシステムの導入整備、運用に関わる費用負担に関わる事項が含まれることが必要である。
(11) 遠隔診断で用いた画像の全て、または診断の決め手となった代表的画像の抜粋については、適切な記憶媒体に保存し、必要に応じて再生可能な状態としなければならない。
(12) 遠隔病理診断・細胞診断にあたり、診断の前および後ともに、診断関係者全員が患者情報の保護について義務と責任を負うものとする。特にインター
ネットを用いたテレパソロジーでは、特別のセキュリティーの方策を講じない限り、直接患者の特定につながる情報をネット上で扱ってはならない。一方ファッ
クスは患者情報が比較的保護され得る古典的方法である。 またセキュリティー目的で行われる患者の匿名化と解読の過程では、患者情報の取り違えが起こる危
険性を潜在的に孕むが、患者と画像の同一性については、繰り返し万全の注意を払ってこれを確認しなければならない。
術中迅速遠隔病理診断・コンサルテーションの環境整備と具体的手順
(遠隔操作型自動化顕微鏡使用能動診断システムを用いた場合)
診断依頼側病院におけるテレパソロジー実施の基本環境の整備
1)診断依頼側としてテレパソロジーを責任担当出来る医療チームを構成すること。具体的には;
(1)使用するテレパソロジー機器について、充分な基礎知識と基本操作技術を持った、医師および技師を配置すること。
(2)病院内に迅速凍結切片標本および迅速細胞診の標本作製の機器整備が適切に行われ、かつ迅速凍結切片標本および迅速細胞診の標本作製技術をもった検査技師を配置すること。
2)テレパソロジーの円滑な運用の為に、テレパソロジー担当者に次の連絡手段を確保すること。
(1)患者情報の秘守が保証され、かつ速やかな応答が可能なファックス
(2)テレパソロジー用に常時速やかに応答し得る電子メイル
3)遠隔病理診断・コンサルテーションに参加する医師、技師、および遠隔診断病理医の三者の良好な意志疎通を常に保持すること。
遠隔診断実施の具体的手順
1)遠隔病理診断・コンサルテーションを依頼する病院(以下依頼側施設)は、遠隔病理診断・コンサルテーションの必要が発生した都度、直
ちにその旨を、診断受託側施設(以下受託側施設)に伝え、両者の事前協議による日程および時間調整を経て、遠隔病理診断の実施を予約する。
2)事前予約により実施の決まった遠隔病理診断・コンサルテーションに対して、診断依頼側施設、診断受諾施設双方の関係者は、その日時に合わせて、遠隔診断の実施に対して充分な態勢を整える。
3)診断依頼側施設の主治医は、予定される遠隔診断症例の臨床情報の要点、提出予定検体の臓器種別、提出個数、および遠隔診断の目的を、診断受諾施設の担当病理医に事前に伝えることを義務とする。
4)診断依頼側施設の主治医または検査技師は、遠隔病理診断あるいは遠隔細胞診断用の検体が提出された時点で、「検体が提出され、これから標本作製に取りかかること」を、診断受諾側施設の担当病理医に電話で伝える。
5)4)を受けた診断受諾側施設の担当病理医は、直ちに遠隔診断受信用システムを立ち上げ、診断画像情報の受信に対して待機する。
6)診断依頼側施設の担当検査技師は、遠隔病理診断用の組織標本または細胞診標本を作成後、直ちにそのスタート画像を取り込み、患者基本情報とともに診断受諾側施設の担当病理医宛て、送信する。
7)6)の送信情報を受信した診断受諾側施設の担当病理医は、顕微鏡遠隔操作により診断を進める。また必要に応じて診断依頼側施設の主治医または同担当技師に、患者または検体情報の追加を求める。
8)診断受諾施設の担当病理医は、7)で得られた診断過程と結果を、音声情報で直接主治医に伝えるとともに、診断依頼側および診断受諾側施設双方で同期・
共有するコンピュータ画面上に、決め手となった診断画像情報を提示し、かつ診断結果を文字情報に表して、確実に主治医に伝えることとする。
9)診断依頼側施設の担当検査技師は、遠隔診断が終了後、用いた組織切片標本または細胞診標本を、速達または宅急便などの速やかな方法により、遠隔診断を行った担当病理医の元へ届けることとする。
10)遠隔病理診断を担当した病理医は、9)で送られた組織切片標本または細胞診標本を受け取り次第、直接顕微鏡下にこれらを観察し、再度診断を行い、遠隔診断の正誤を判定する。
11)10)において遠隔診断に誤りがあったことが判明した場合は、そのことを遅滞なく診断依頼側施設の主治医に伝え、正しい診断結果を改めて伝えることとする。
12)遠隔病理診断の結果は、観察した画像情報の全てとともに、適切な電子媒体に保存記録し、必要な場合には直ちに再生出来るようにする。
13)診断依頼側施設のテレパソロジー関係者と、診断受諾側施設のテレパソロジー担当病理医とは、定期的に直接対面の会合を持ち、内外のテレパソロジーに関する諸問題の情報を共有し、テレパソロジーのより良き運営方法と活用法を検討する