新型コロナウイルス感染症等に関する日本病理学会の病理解剖指針(2020年5月18日)
令和2年5月18日
一般社団法人日本病理学会
理事長 北川昌伸
医療業務委員長 佐々木毅
5月14日に多数の県で緊急事態宣言の解除あるいは緩和がなされました。県によっては、もう何週間もの間、新規感染者が0人という地域もあります。その一方で、緊急事態宣言が解除されない都道府県では、現在も毎日のように新規感染者が報告されており、感染源が特定できない感染者も少なからず報告されております。また、医療資源の枯渇がさらに深刻化している地域もあり、N95マスク、フェイスシールド付きマスク、感染防護服が、感染の水際で盾となって奮闘としている臨床医はじめ医療関係者にさえ配給が途絶えている医療機関が多数報告されています。
現在、病理解剖は多くの医療機関で停止あるいは激減している状況ですが、その一方で、医療の検証としての病理解剖を強く望む臨床医からの声、国民からの声を無視することが出来ないことも事実です。
日本病理学会としても病理解剖が滞っている事態は本意ではありません。
このような状況を鑑み、日本病理学会では病理解剖に関して従来の指針(4月27日発出)を改め、新たな指針を提唱いたします。
1.緊急事態宣言が解除された地域に関して
臨床担当医と十分に協議の上、これまで求めてきたPCR検査、抗原検査を検討項目とすることを可とし、病理解剖の実施に関しては、病理医と臨床担当医の合議の上、各施設の判断と責任にゆだねるものとする。
2.緊急事態宣言が継続されている地域に関して
病理解剖時には大量のエアロゾールが発生することが報告されていることから、原則、病理解剖前あるいは病理解剖時のPCR検査あるいは抗原検査の実施を求めることとする。
ただし、これらの地域でも新規感染者数が減少している現状を鑑み、感染の可能性が極めて低いと考えられる場合には、PCR検査あるいは抗原検査の実施は検討事項とし、病理医及び臨床担当医との合議により各施設の判断と責任にゆだねるものとする。
(1)臨床的に症状がなく、新型コロナウイルス感染の可能性がないもしくはほぼないと判断された場合には、病理医と臨床担当医の合議の上、各施設の判断と責任の元、病理解剖を実施するものとする。
①:検査キット不足等によりPCR検査や抗原検査実施が困難な場合
この場合も無症候感染等も考慮し、N-95マスク等や個人防護服を可能な限り着用し、十分に注意して病理解剖を行うことや、大量にエアロゾールが発生するとされる手技(ストライカーの使用等)を回避するなど、病理解剖の範囲についても臨床担当医と協議の上、検討することを推奨する。
②:検査が可能な場合には原則、病理解剖前あるいは病理解剖時にPCR検査あるいは抗原検査を推奨する。
(ア):PCR陰性の場合には通常の感染予防策で病理解剖を行う。
(イ):PCR検査または抗原検査陽性の場合には国立感染症研究所の感染予防策に従って、病理解剖を実施する。
(ウ):抗原検査陰性の場合にはPCR検査を実施し、その結果をもって上記(ア)(イ)に従って病理解剖を行うこと。
(2)臨床的に新型コロナウイルス感染が疑われるあるいは否定できない場合
病理解剖前あるいは病理解剖時にPCR検査、抗原検査を必須とする(結果を待って病理解剖を行うこと。なお、PCR検査キットに関しては複数のメーカーから最短30分から90分程度で結果が得られるものが販売されており、それらの活用も各医療機関内で検討することを求める)。
(3)新型コロナウイルス感染患者の病理解剖
症状や肺炎の有無等に関わらず、国立感染症研究所発出の感染予防策に従って解剖を行うこと。
*付記:病理解剖前あるいは病理解剖時のPCR検査実施に関しては、現在、欧州や米国など世界のほぼすべての国々で実施を求めている実態がある。
*ご質問、ご意見等は「日本病理学会事務局(jsp-admin@umin.ac.jp)」まで、メールにてお願いいたします。大変に恐縮ですが、現在、日本病理学会事務局は政府および東京都の方針に従い、原則テレワークとさせていただいております。電話での対応はお受けいたしかねますので、ご了解の程お願いいたします。