このページでは、Javascriptを使用しています
  • 日本病理学会について
  • 市民の皆さまへ
  • 専門医
  • 病理医への扉
  • 刊行物

HOME > 新着情報 > 「医療の安全確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に
関する試案-第三次試案-」に対するパブリックコメント


「医療の安全確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に
関する試案-第三次試案-」に対するパブリックコメント

理事長 長村義之

 4月3日に公表された「医療の安全確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」に対して、日本病理学会は理事会のご意見を伺い、常任理事会で作成したパブリックコメントを4月28日に提出いたしました。厚生労働省ホームページ(5月16日付け意見の中間まとめ)にも掲載されています。会員の皆様におかれましては、「病理学の医療・社会への還元」という視点から、是非お目通しいただきたく存じます。
本件に関しましては、日本病理学会としても、行政・閣議などの今後の動向を充分見据えて行きたいと思っております。さらに具体的な案件が出ますれば、またご案内いたします。どうぞよろしくお願いいたします。

「医療の安全の確保に向けた医療事故による死亡の原因究明・再発防止等の在り方に関する試案-第三次試案-」に対する意見について


平成 20 年 4 月 28 日
 社団法人 日本病理学会
理事長 長村義之

日本病理学会はわが国における医学医療の発展のため、病理学の学術、社会活動を行う社団法人であり、病理診断、病理解剖を担う病理専門医制度を運営し、約 2000名の病理専門医を擁している。病理医は、病理診断を通して、質の高い安全・安心の医療の実現を目指している。とりわけ患者の死に際して、病理解剖 とその後の臨床・病理カンファランス(CPC)を通して、臨床医とともに、診断・治療の適切さを点検、反省し、医療の改善に生かす努力を日常的に行ってい る。また、病理医による解剖結果の遺族への説明などによって、遺族の医療・医学への理解にも直接的に貢献している。
 
以上の立場から、日本病理学会は、遺族、国民と医療者をつなぐ「診療関連死の死因究明」制度の創設に向けた厚生労働省の積極的な姿勢を高く評価しており、 今回の第三次試案に基本的に賛成する。しかしながら、この試案を実施に向けて進展させていくためには、死因究明の基盤となる調査、評価システムを整備する ことが重要で、とりわけ解剖調査を始めとした調査実施施設の体制および人的整備といった重要な問題を十分に検討する必要がある。社団法人 日本病理学会からのパブリックコメントとして、このような点に的を絞って問題点を挙げ、それらの解決を強く要望したい。

[地方委員会による調査] (27) ②

第三次試案では、診療関連死について、地方委員会が管轄する調査チームが死因究明に関する調査を行い、中央の医療安全調査委員会(仮称)が再発防止策を提 言する、という具体的な仕組みが示されている。診療関連死の調査のために行われる解剖は死因究明の過程の重要な第一歩であり、従来から行われてきた病理解 剖あるいはその延長線上にあるとされる。通常の病理解剖は医療の質を自己点検するために必須の手段であるが、診療関連死の死因究明も病理解剖に基盤がある ことに充分な配慮を望みたい。すなわち、この20年間にわたって病理解剖数は減少の一途をたどり、現在は欧米諸国に比べ非常に低い水準となっている。この ような状況を招いた主な原因は、病理解剖費用が医療機関の負担として放置されてきたため、医療機関が積極的に環境を整備することが困難であったことにある と考えられる。このような現状を重く受け止め、これらの病理解剖費用を公費負担とすることが国民的視野からも強く望まれる。
[地方委員会による調査](27)③
次に、解剖担当医と解剖施設の問題である。大部分の医療機関では「ひとり病理医」であることが多く、産婦人科や小児科に引けをとらず多忙を極めていること から、地域によっては担当病理医が不足する可能性が高い。このような現状を鑑みて、病理医の育成という基本策が重要であることとともに、制度の実行が容易 となる具体策が十分に考慮されなければならない。以下、3点について指摘する。
1.日本病理学会では、国民の医療、病理診断を安心で納得の出来るものにするために継続的に努力してきたが、慢性的な病理専門医不足を解消するに至ってい ない。このような状況の打開のためには、病理医の役割に対して医療従事者のみならず社会的認知度を更に高め、専門医養成の基盤となる財政的支援が行われる ことが必要である。
2.次に、制度の実行に向けて、解剖担当医(病理医)の地域単位のグループ化、現実的な登録制度等の整備とともに、解剖施設等の運営のための充分な財政的裏づけが必要となる。
3.具体的には、地域ごとに診療関連死の死因究明のための解剖施設を複数箇所設けることが求められるが、既存施設を充実させるなどによって、各都道府県に 最低1ヵ所の拠点施設を設置することが望まれる。そして拠点施設を中心にして隣接する都道府県と密接なネットワークを形成し、互いに支援しあうことが必要 である。このため、現在行われているモデル事業実施地区を地域全体の中心とし、県単位の拠点施設を指導し、地域ごとの活動がスムーズに行われるように協力 体制を整備しなければならない。

[地方委員会による調査](27)②*
なお、今回、解剖の補助的手段として死亡時画像診断の活用が検討課題にあげられている。この方法は既に法医や救急の現場では死因の検索に有用なことが知ら れているものの、とりわけ確定的な医学的事実を基盤としなければならない当事業の調査、評価に当たっては、全く評価が行われていない。したがって、いきな り単独の調査方法として導入することは大きな混乱を招くことが予想される。このため、解剖と併用することにより充分な検討を行う必要がある。

まとめ
以上、日本病理学会としては、本事業への効果的かつ積極的な参画のため、具体的な要望検討項目として以下の三点を挙げ、さらに医療安全推進のため、病理解剖の公費負担を要望する。
1. 病理医の役割に対する社会的認知度を高め、専門医養成の基盤となる財政的支援
2. 解剖担当医(病理医)の地域単位のグループ化、現実的な登録制度等の整備、解剖施設等の運営のための充分な財政的裏づけ
3. 既存施設の充実による解剖調査拠点の設置とネットワークによる協力体制の構築。
4. 病理解剖の公費負担。