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ステートメント:人工知能AIと病理医について

病理医を目指す若い人達へ

病理医は病理診断を専門とする医師です。医療において、多くの疾患は病理診断に基づいて治療がなされます。病理診断は、とても重要で、医療の基盤です。それを担う病理医は社会から求められており、その重要性は今後変わることはありません。益々重要な専門医となってくるでしょう。
 しかしながら昨今AIが様々な社会インフラを置き換えはじめてきています。病理診断もAIが行うので病理医は必要がなくなる、と誤った情報が一部で流れています。日本病理学会では、将来病理医がAIを使うことがあっても、AIは病理医にとってかわるものではないことをここに明確にします。
日本病理学会

ステートメント:人工知能AIと病理医について
現在、人工知能artificial intelligence (AI)の各業界への導入が進みつつあります。医療もAI開発のメインターゲットであり、病理診断や放射線診断の領域でも積極的な開発が行われています。病理学会としても新たな手法の導入は歓迎するものですが、一方で「病理診断はAIに置き換えられる」といった意見を聞くようになりました。病理医を目指す学生からもそのような不安の声を聞くこともあります。果たしてこの「不安の声」は正しいでしょうか?

*病理医は「診療」と「研究」に同時に従事する特別な医師
ここで、病理医の担う役割を考えてみたいと思います。病理医は、その活動が診療である「病理診断」とともに、基礎医学である「病理学研究」の「車の両輪」に同時にまたがる、特別な医師として位置づけられます。日々の診療である病理診断を通じて患者診療に貢献しつつ、疑問に感じたことを、病理検体等を用いて研究を行います。目前の患者さんの最終診断を行うばかりでなく、その疑問や知見の蓄積を研究にも結びつけ、将来的に広く医療に貢献する新しい真理を発見する、そんな医師です。病理診断では「Doctor of doctors」として臨床医への指導も行い、意見交換を通じて臨床医とともに基礎研究を行うこともあります。研究の多くは、疾患に結びついたものであり、その新たな知見に基づいてこれまでにも多くの新薬の開発が行われ、様々な疾患の治療や予後の改善等に貢献してきました。

*AIが病理医に代わることはありうるか?
さて、診療面の「病理診断」については、確かにAIの進歩は目覚ましいものがあります。ただし、現状開発されているAIは極めて狭い決められた範囲での判断のみに能力を発揮しますが、多彩な疾患を診断する病理医の役割を置き換えられるものではありません。例えば「胃がんの有無を判断する」といった単純な内容であればAIはかなり高い力を発揮するでしょう。しかし、その正確性は完全ではなく、依然として病理医による確認が必要です。胃がんも典型例だけではありません。胃には腺がんだけではなく、悪性リンパ腫など多彩な腫瘍が発生します。病理診断は2者択一で解決できるような単純なものではありません。要するに応用問題になるとAIは全く歯が立たなくなるわけです。 
病理医は、臨床医とのコミュニケーションを通じて、患者さんの状態を的確に把握して、臨機応変に免疫染色や遺伝子検査などの指示を出し、その結果をもとに、患者さんの治療法を決定するような詳しい病理診断を行います。人間のからだには、がんのような腫瘍ばかりではなく、非腫瘍を含め多彩な疾患が生じますが、AIがこれらの疾患を全て正確に診断することは到底不可能です。現に米国では、病理診断を担う病理医の頭の中を俯瞰するようなAIは未来永劫に作ることはできない、という宣言まで出されています。
このようにAIが病理医の担う役割を置き換えることは、能力的に不可能なわけですが、法律面でも、「病理診断」は、少し難しい言葉でいえば「医行為」にあたり、医師でなければ行うことができない医業ですので、AIが「病理診断」を代替することはできないのです。

*病理医は求められています(人口当たり米国の1/3以下です)。まだまだ足りません!
病理医は、臨床医と連携しつつ、疾患診断の中核として、医療チームの密なコミュニケーションのなかで医療安全に貢献しています。さらには先述した、新たな疾患の発見、その原因やメカニズムの探求を行い、より効果的な治療に繋がる研究開発も日々行っています。この点もとてもAIが代行できるものではありません。「病理医の代役」を務めるようなAIの開発は不可能です。
AIは病理診断業務の中で「見落とし防止」「労力の低減」といった「病理医をサポートするための道具」であり、現状のAIはそのような目的に限って開発されています。将来はAIの導入により、病理医のストレスが軽減され、じっくりと多面的で深い思考をめぐらせて診断を特定する病理医の仕事は、よりやりがいを感じる魅力あふれるものへと進化していくでしょう。
医学が進歩すればするほど、新たな治療法に対応する新たな疾患分類、病理診断が必要となります。がんゲノム医療が開始された現在、ゲノム医療に精通した病理医が求められ、日本病理学会では新たに分子病理専門医制度を立ち上げました。まだまだ、多くの病理医が医療現場では求められています。わが国の病理専門医数は2021年で約2600人です。これは人口あたりでは米国の3分の1以下で、まだまだ不足しています。病理医の活躍の場は全国にあります。
病理医を目指す学生さんそして研修医や専攻医の先生方には安心して病理医になる道を選択していただきたいと思います。