ご挨拶 平成28〜29年度
日本病理学会理事長
深山正久
平成28年11月15日,日本医療開発機構(AMED)から「医療のデジタル革命プロジェクト」に係る公募が発表されました.これは,「日本再興戦略2016-第4次産業革命に向けて-」(平成28年6月2日閣議決定),「未来への投資を実現するプロジェクト」(平成28年8月2日閣議決定)を経て,実施されることになったもので,平成28年度「臨床研究等ICT基盤構築研究事業」として公募されました.
日本病理学会では,その一つの課題「ICT技術や人工知能(AI)等による利活用を見据えた,診療画像等データベース基盤構築に関する研究」が,今後の病理学,病理診断学にとって重要であると考え,研究委員会を組織し,応募いたしました.幸い,平成29年1月16日採択の連絡が届きました.
ここに概要をお知らせし,経緯へのご理解,今後の事業へのご協力をお願い申し上げます.
【研究事業名】AI等の利活用を見据えた病理組織デジタル画像(P-WSI)の収集基盤整備と病理支援システム開発 (Japan Pathology Artificial Intelligence Diagnostics Project; JP-AID)
【研究の概要】AIの利活用の一環として,病理組織デジタル画像(Pathology-Whole Slide Imaging:P-WSI)のビッグデータを全国の研究参加施設より収集・集約し,これを活用して,National Clinical Database(NCD)との共同作業のもと、病理診断精度管理ツール,病理診断支援ツールの開発を行います.同時に,国立情報学研究所(National institute of Informatics : NII)と連携して,AI(深層学習)を活用した病理診断ツールの開発を行い,国民のための病理診断にさらにいっそう貢献できる体制つくりを目指します.将来的には,「地域基盤・循環型 病理診断相互支援型モデル」を実現し,地域医療への貢献を見据えた研究も行います。
【倫理面への配慮】これまでに各病院病理部門等で蓄積された病理画像を用いた「後ろ向き研究」であり、画像利活用に当たっては、個人が特定できないような配慮をいたします(個人名、ID等が登録されることはありません)。また、日本病理学会倫理委員会がこのような研究のための倫理規範の策定・研究も同時に行う予定にしております.なお画像をサーバに保存する際には、さらに「秘密分散化」という特殊な技法を用いて、画像等が盗み見されることがないような配慮も行います(画像をジグソーパズルのピースとして保存.パスワード等を入力しなくでは画像としてみることができない仕組みを採用).なお,参加施設のHPに研究内容の詳細を掲載する予定ですので、研究等を辞退されたいという患者様がいらっしゃいましたら,適宜,施設の担当の先生にお申し出ください.研究に参加されないことで,不利益をこうむることは一切ないことをお約束いたします.
【期待される研究成果】
(1) これまで各施設に保管されていたP-WSIを収集・集約化し,そのビッグデータを活用して病理診断支援ツールを開発することにより,より精度の高い病理診断を国民の皆様に提供できることが期待できます.
(2)地域連携モデルとして,すでに病理診断相互支援システムが運用されている2拠点で実証実験を行い,地域医療における病理診断の精度管理や地域医療への貢献が期待できます.
(3)日本全国から高品質かつ膨大なP-WSIを収集いたしますが,収集されるデータの質と量は世界的に類を見ないものとなります(国際的にも日本の病理標本の質は高い評価を受けております).これら高品質P-WSIによるAI病理診断支援ツールは他を寄せ付けないシステムになることが期待できます.病理診断用人工知能システムは患者さんの病理診断支援はもちろんのこと,医師・医学教育および医学研究にも大きく資することが期待されます.