2006年4月アーカイブ

2006年4月25日

アスベスト新法に関して・・病理医の役割

平成18年4月25日

 2006年3月に「石綿(アスベスト)による健康被害者の救済に関する法律」が制定されました。これに関連しましては、厚生労働省および環境省より、日本病理学会に対しまして協力の要請があり、医学判定に関する専門家を数名推薦しております。

さらに、独立行政法人環境再生保全機構より、前記法律に基づく救済給付に係わる医師、医療機関向けの広報用資料を会員に周知してほしいとの要望がありましたので、お知らせいたします。【医師、医療機関等の皆様への記事のリンク】このパンフレットは、春期学会場でも配布いたします。

また、一連の活動にご尽力されている広島大学の井内康輝先生より、下記の通りのお知らせをいただいておりますので、ご参照下さい。

2006年8月追加情報
医学的に判定に係わる資料に関する留意事項 PDF】  

    


                                  

病理学会会員の皆様へ

広島大学大学院医歯薬学総合研究科病理学  井内 康輝

  2006年3月のアスベストによる健康被害者の救済に関する法律の制定によって、救済の申請をされる患者さんあるいはそのご家族のために、病理医が病理診断の再検討、診断書等の作成、アスベスト小体の測定などを依頼されることがあるかと思います。

  この制度の創設に加わってきた者のひとりとして、病理医の役割は以下のようにまとめられると思いますので、お知らせ申し上げます。

1. 中皮腫例について

  中皮腫の診断が確定されれば、アスベストへの曝露が証明されなくても、救済の対象となりますので、救済制度の運用にあたっては中皮腫 の確定診断が決め手となります。画像上、中皮腫が疑われても確定的ではなく、細胞診についても、その疑いを強くもたれることはあるかと思いますが、最終的 には組織の病理学的診断を求められます。

  現在平成15年の死亡届で中皮腫と診断されている878例の中で、同意を得られた方について診断の再検討を行っていますが、病理学的 にも10~15%程度は中皮腫の診断には疑義があります。よって、診断書を作成される場合、定型的でない例ではHE染色のみでなく免疫組織化学的染色等を 加えて診断書を作成していただく様、お願い致します。

  中皮腫の例では、肺組織からのアスベスト小体やアスベスト繊維の計測の必要はありません。

2. 肺がん例について

  ご承知のように、肺がんの原因をアスベストへの曝露によると決めることは大変困難だと思われます。従って今回の制度では、一定の規準 の曝露があったことが証明できる場合にのみ、救済の対象となることとなっています。曝露の証明方法のひとつが、肺組織から一定量のアスベスト小体あるいは アスベスト繊維が抽出されることであります。この場合病理では、剖検例や手術例で臓器が残っていれば、非腫瘍部の肺組織の提供をする必要があります。

  しかしアスベストの定量的評価は一定の規準でやる必要があるので、各医療機関では実施することは必要ありません。アスベスト小体の場合は各地のアスベスト疾患センターに、アスベスト繊維の場合は産業医学総合研究所へ依頼して下さい。

  プレパラート上でのアスベスト小体の数のカウントは不必要ですし、一定のアスベスト曝露の規準としてはとりあげられていません。


2006年4月 7日

平成18/19年度常任理事会所信表明

平成18年4月7日
常任理事会


理事長 長村義之(東海大学)


4月1日より社団法人日本病理学会の理事長を拝命いたしました。その責任の重さを感ずると同時に、伝統ある病理学会の発展のため尽力する意欲に燃えております。

 日本病理学会は、会員の皆様のこれまでのご努力で学術および診療業務において着実に発展して来ております。特に今回の診療報酬改定に おいては、他診療領域に比較して特記すべきプラス評価がなされたことは、その発展に弾みをつける良い機会と考えております。その診療報酬の患者負担分を考 えるとき、病理学会として説明責任が増すと同時に、社会への責任を果たすため診断精度の更なる向上が要求されるものと思います。 一方では、病理専門医の 不足が近年学会内外で唱えられて来ています、毎年認定される病理専門医の数から見ても、臨床研修医を踏まえたリクルートの仕組みを考える必要があります。 それには、病理医の地位の確立、社会での認知なども必須の事項と思います。更には、すべての根幹となる「病理学」が魅力ある学問分野として発展するための 研究組織のあり方なども検討する必要があります。 このような状況にあって、我々は、充分な現状の分析に基づき5年~10年後を見据え、内部に留まらず、 外に向かっても種々の企てを進める時期であると思います。これまで積極的に進めて来ました学術・診療に関わる重要課題は引き続き進めて行きたいと思いま す。 更に深く掘り下げて進める必要のある課題のテーマを以下の3つに分けて進めたいと考えています。


1.病理医の職能と地位の確立


 各医療施設内に、病理医の職能を発揮する部署が確保され、それが院外表示可能となり、病理診断・標本作製などが充分な診療報酬に裏付 けられることが目標です。今回の診療報酬改定も充分に咀嚼した上で、我々の職能の標榜などとも関連付けながら然るべき要望を提出していきたい思います。社 会への責任を充分に果たすために、本年度から施設認定・更新に導入する病理診断の精度管理も内容を充実させ実行していく必要があります。このような病理診 断に関わる内容を学会外へ広報・周知して、厚生労働省をはじめとした行政への働きかけを精力的に進めたいと存じます。このような環境の整備は、学生・研修 医へ病理のプラスイメージを見せるためにも重要と考えています。


2.病理医の育成と倍増


 学生の卒前教育における病理学の内容を、更に魅力的に整備し臨床研修での病理学の位置付けを明らかにすることが急務と考えます。 学 会として学生・研修医への働きかけを強化することが必須です。 「病理学」を学問および診療体系において更に明確に位置付けるために、基礎としての「病理 学」、クリニカルクラークシップの一貫としての「病理学」、臨床研修医における「病理学」、専門医教育としての「病理学」などを一連の教育の流れとして整 備してみたいと思います。それには、学会内でコンセンサスを得ながら、各施設内での教育システムへの位置付けが重要です。その上で、学生・研修医との接点 を多く持つ仕組みを構築したいと思います。


3.学術・研究の推進


 言うまでもなく、日本病理学会は学術団体であり、研究面の推進が重要であり、病理業務とは、車の両輪として機能することが必要です。 幸い学会には世界に通用する業績を出されている若手研究者が数多くおられ、頼もしい限りです。研究の夢を語りながら互いに切磋琢磨し、病理学研究の独自性 を強調し大型研究費の獲得を推進すると同時に、学術奨励賞や学術研究賞(A演説)などを通して優秀な若手研究者の発掘・育成に力を入れたいと考えておりま す。
 

 日本病理学会として、このような目的の実現のために、何が必要なのかを会員の皆様と充分にご相談しつつ、具体的な提案をし、それを事 業計画に組み入れて行きたいとい思います。そのためには、現行の財務の見直し、組織の見直しを通しての改革が必要と思います。 我々が、学会として事業を 展開してゆくために、現行の学術団体としての組織のみで可能なのか、新たな組織(財団など)を形成する必要があるかも慎重に議論をしていきたいと思いま す。 企画委員会を含め各委員会には、相互が柔軟に連携し、会員のニーズ、社会のニーズを汲み取りながら、具体案の作成をお願いしたいと考えています。

 私は、今こそ会員の皆様の英知を結集する時と心得ております。社団法人日本病理学会の更なる発展のため、会員一同の皆様の一層のご協力・ご尽力をお願いいたします。




副理事長・常任理事・学術委員長  岡田保典(慶應義塾大学)


 病理学会副理事長、学術委員長を務めることとなりました。長村理事長と協力して、本学会の発展のために尽力したいと思っております。 次代を担う病理医・病理研究者の育成・倍増を目指す本学会においては、診断病理と実験病理の一方に偏ることなく両者がバランスよく運営されることが肝要で す。このような観点から、「実験的事実に裏打ちされた診断病理」と「ヒト疾患の診断・治療に結びつく実験病理」が表裏一体となった情報を提供できる病理学 会を目指して努力したいと思っております。これまで、学術委員会・研究推進委員会ではA演説の位置付けや病理学会学術集会の改革・活性化について討議し、 改革案を提示してきました。今後、改革案を実施に移し、「学術研究活動の発表・意見交換」と「診断病理に関する最新情報の収集」を乖離することなく保証で きる場を実現していきたいと考えております。学会員の皆様のご支持とご協力をよろしくお願い申し上げます。




副理事長 深山正久(東京大学)


長村理事長のもと、副理事長、企画委員長として病理学会の発展に尽くしたいと思います。
1)5-10年後、「病理学会員数6000名規模」を実現し,新たなステージに病理学会を押し上げるため、病理医のリクルートに対する取り組みを充実させたいと思います。
2)病理学会の活動を活性化することを目指し、実験病理,臨床医学双方の先端を取り入れ,咀嚼する企画を打ち出したい。
3)病理学会の組織のあり方、とくに病理専門医部会の位置づけ、病理専門医指導医と学術評議員の関係と活動、学会費の値下げなどに関して、大胆な提案を行いたい。
4)旧来の考え、権利、伝統に固執することなく、新しいステージを目指すためには、明確な提案と率直な議論が重要だと考えています。常に、十分に議論を尽くすべく努力したいと思います。




常任理事・財務委員長  真鍋俊明(京都大学)


 過日、常任理事会準備会が開かれ、日本病理学会の現状と抱えている問題点を明らかにする努力がなされました。そして、これらの問題点を共有のものとし、解決へ向けて努力することを確認し合いました。新理事長以下常任理事の熱意に満ちた会でした。
 この新体制の下、財務担当として病理学会の発展のために尽くしたいと思っております。まず財務状況をきちんと把握し、評価する。その上で、企画担当その 他理事、各種委員会委員長とともに現行の諸事業の妥当性、方向性を見直し、発展させるべき所、維持すべき所、縮小ないし廃止すべき所を明らかにして行きた いと考えます。学会の活動も経済によって大きく左右されますが、これだけに捕らわれることなく、将来の方向性を見据えた大胆な企画も必要で、この点を考え た財務からの見直しや支援が必要と思っています。今、社会全体も変革の時期です。舵取りを間違えないよう財務面から考えていく所存です。




常任理事・病理専門医部会長  黒田 誠(藤田保健衛生大)


 この度平成18年度/19年度の常任理事を拝命いたしました。私の任務は病理専門医部会長として長村理事長を支えていくことです。今 回の診療報酬改訂にあたり、病理診断に係る評価の充実が重点項目として取り上げられ、常勤病理医の要件が緩和される等、厚生労働省も医療の現場における病 理の重要性と現実の病理医の実情を把握し理解を示してきております。しかしながら、病理医を育成していく立場にある病理学会としては入局者の減少,病理専 門医試験受験者の減少という厳しい現実が突きつけられております。理事長の所信表明にもありますが若い世代へ向けて魅力あるメッセージを発信して人材確保 へ向け、あらゆる手段を試みながら努力していかなければ社会からの評価を失いかねません。とにかく実行あるのみですので、この問題に今までの様々な経験を 生かして全力で取り組んでいく所存でございます。会員の皆様の御理解、御協力の程宜しくお願い申し上げます。



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