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2019年4月24日
「デジタルパソロジーガイドライン」の公開及び「病理診断のためのデジタルパソロジーシステム技術基準」の改定について
この度、日本病理学会では、病理診断分野における情報通信技術、
特にデジタル画像技術の応用研究の進展、whole slide imagingの発展を受け、
「デジタルパソロジーガイドライン」を作成しました。
また、同時に「病理診断のためのデジタルパソロジーシステム技術基準」も改定しましたので、
両者をHPに掲載させていただきます。
技術発展の目覚ましい分野であり、今後も改定を重ねていく必要があると思います。
それに向けて忌憚のないご意見を賜れば幸いです。
「デジタルパソロジーガイドライン」(PDF)はこちら
「病理診断のためのデジタルパソロジーシステム技術基準第3版」(PDF)はこちら
2016年7月12日
ゲノム試料の収集及びゲノムデータの取扱いに関する提言
日本病理学会理事長 深山 正久
平成28年6月に行われた厚生労働省「「ICH E18:ゲノム試料の収集及びゲノムデータの取扱いに関するガイドライン(案)」に関する御意見・情報の募集について」を受け、日本病理学会では以下の提言を行いました。
※参照:厚生労働省HP
(提言)
今回のICHガイドラインの「ゲノム資料の収集」の項で「研究用に組織検体を採取する場合は、治療方針決定に重要な病理診断に支障を来さないようにすべきである」との文言を入れるべきである。
病理医の行う医療行為である病理診断は特に癌の診断では確定診断となり治療方針決定に重要な役割を演じている。研究用の組織試料等を手術検体から採取する場合には病理診断に必要な部分を除いた部分、いわゆる診療後余剰検体から採取すべきである。研究用の組織検体採取のために、病理診断に必要な部分を誤って除去することにより病理診断を阻害することは、患者の不利益にもつながり厳に慎まなければならない。
2016年6月24日
医療法における医療調査制度についての提言
日本病理学会理事長 深山 正久
平成28年6月に行われた厚生労働省「医療法施行規則の一部を改正する省令(案)に関する御意見の募集について」を受け、日本病理学会では以下の提言を行いました。
※参照:厚生労働省HP
このため、医療事故調査における病理解剖の現状について、平成28年5月に全国大学病院および病理学会認定施設Aの計142施設を対象に、医療事故調査に関するアンケートを行った。その結果、126施設から回答を得、以下の点が明らかになった。
1) 日本医療安全調査機構から発表された医療事故報告数に対し、実施された病理解剖の数は約2割程度と推定された。
2) 都道府県別の病理解剖数では、最多が11件、最小0件と地域差が認められた。
3) 医療事故の届け出はされていないが、医療事故に密接に関係すると思われる症例についての病理解剖が、医療事故による病理解剖の1.5倍存在した。
4) 医療事故死の病理解剖の受け入れ体制について、取り決めがある施設は約半数であった。
5) 外部施設での医療事故死の病理解剖について、依頼があった場合に受け入れる方針を示している施設は約半数であった。
6) 医療事故死の病理解剖費用が決まっている施設は約半数であった。
「病理解剖による検証を積極的に進めるための施策が必要である。」
具体的には、医療事故調査等支援団体協議会の中で、病理解剖を円滑に進めるしくみを作ることが重要である。特に、他施設からの病理解剖の依頼を受け入れる予定のない施設が約半数あるという現状が明らかとなった。受け入れられない理由として人的制約、経費の問題が多く挙げられていることから、病理解剖実施に対する支援体制の強化について対策を検討すべきである。
2. 医療事故の報告の適正化について
「報告対象の明確化、報告の適正化をはかるとともに、病院の管理者は、病理医を含めた検証担当者と情報を共有する院内体制を整備する必要がある。」
医療事故報告症例の病理解剖数について地域差があることが判明した。さらに、「医療事故に相当する可能性があるが届け出ていない症例」が存在し、通常の病理解剖として行われている可能性も指摘されている。医療の質の向上や地域差の無い医療体制の確立を目的とした医療事故調査制度を充実させるために、報告対象の明確化、報告の適正化は必須である。また、病院の管理者は、病理医を含めた検証担当者に適切な対応をとるとともに、情報を共有する院内体制を整備する必要がある。
2016年5月31日
患者に由来する病理検体の保管・管理・利用に関する日本病理学会倫理委員会の見解
一般社団法人日本病理学会 理事会・倫理委員会
>>PDF版はこちら
病理部門には細胞診断、生検あるいは手術から得られた検体が保管されている。病理医は高い職業倫理観とプロフェッショナルとしての高度な業務遂行能力を発揮し、これら病理検体を整理・保管し、医療の精度管理のみならず、医学研究の推進、医学教育などに適切に利用する責務を有している。
このため、病理検体の保管に関し、以下のように考えるのが適切である。
1.病理検体の保管に際しては、患者の尊厳とプライバシーが保護されなければならない。診断書、顕微鏡標本、パラフィン・ブロックあるいは肉眼写真についても同様である。
2.医療機関あるいは病理医としての業務遂行、すなわち病因と病態の解明に資するため、検体由来者である患者やその家族から病理検体の全部あるいはその一部の返還要請があったとしても、正当な利用や適切な管理が担保されない限り、返却・譲与すべきではない。
3.ただし、正当な理由の記載された文書による求めがあれば、返却することとする。
4.なお、返却に伴う病理検体の保管に関しては、公序良俗に反する事態が起こらないよう、保管者に誓約を求める必要がある。
注:
病理検体の返却・提供を求めるための申請書(書式は問わない)には、次に挙げる事項をもれなく記載することがのぞまれます。
1) 申請する施設・機関の名称、施設・機関の長(病院長等)の氏名
2) 患者氏名、受診科、病理臓器が摘出あるいは切除された年月日
3) 返却あるいは提供を求める試料の種類 (病理臓器、病理標本の別を記載する)
4) 返却あるいは提供を求める理由 (セカンドオピニオン、コンサルテーション 等、その内容を具体的に記載する)
5) 試料返却の有無
6) 申請者の氏名、住所、患者との続柄等
「患者に由来する病理検体の保管・管理・利用に関する日本病理学会倫理委員会の見解」説明文
このたび日本病理学会倫理委員会は、医療を取り巻く状況の変化に鑑みて、上記病理検体取扱いに関する従来の見解を一部修正することといたしました。
これまで日本病理学会では、検体由来者である患者さんやそのご家族から、病理検体(細胞診断、生検および手術に由来する検体)の全部あるいはその一部についての返還要請がありましても、医療機関としてあるいは病理医としての業務遂行に支障が生じるという理由で、返却すべきではないと判断してきました。
しかしながら、近年セカンドオピニオン外来が普及し、みずから検査を受けた病院以外で患者さんが治療方針に関する助言を求められる機会が増えてきました。その際に、病理検体(採取された細胞、あるいは、生検や手術によって採取・切除された組織の切片を貼付した病理標本)の提出を求められる局面も生じるため、検査を受けた病院や施設に、患者さんやそのご家族が病理標本の返却を要望される事例が発生するようになりました。そこで、本倫理委員会として、外部委員にご参画いただいたうえで検討を重ねました結果、正当な理由の記載された文書による返却要請があった場合には、病理検体を返却することとするとの結論に至り、別紙のように従来の見解を一部修正することになりました。
そもそも手術や生検に由来する病理臓器や病理標本は、病院長もしくは施設長が、検体由来者である患者さんやご家族から信託を受けたものであり、それらを適正に管理する義務を負っています。しかも病理診断に用いられた病理標本は、「診療に関する諸記録」として、「診療録」と同様に一定期間、病院ないし施設で保管する義務を有します。この見解に変更はありません。
以上、病院・施設にあっては、セカンドオピニオンやコンサルテーションを希望したいとの意向が、検体由来者である患者さんやそのご家族から表明された場合、その理由を記載した文書(注 参照)を病院長等の施設責任者に提出するよう求められたうえで、それに対する適切な判断をされ、病理標本や臓器の返却・提供に応じていただくことがのぞましいと考えます。
参考資料:
【日本病理学会倫理委員会における議論の前提】
1.本見解は細胞診断、生検および手術に由来する検体を対象としており、病理解剖から 得られた検体には適用しない。
2.病理検体を以下の2群に区分けして議論を進める。
病理臓器:未固定および固定された細胞、組織、臓器であり、病理部門でさらなる加工が加えられていない(凍結ブロックを含む)。
なお、病理臓器は感染性廃棄物として取り扱われる。
病理標本:病理部門で加工された全ての標本を含む。これには電子顕微鏡/パラフィン・ブロック、プレパラート、肉眼・顕微鏡写真などを含む。
3.「病理臓器」および「病理標本」を医学教育、病理業務の精度管理あるいは医療監視(medical audit)に利用することは、本来の病理業務であり、目的外使用にあたらないが、社会の理解を得る不断の努力が必要である。
4.病理検体を用いた研究は、日本病理学会理事会が平成12年11月に提示した如く、 その必要性、重要性に鑑み、今後も積極的に促進されるべきである。なお、全ての臨床研究が倫理審査の対象となるが、適切な手続きを経る限り、研究を阻害するものではない。
5.症例報告のあり方に関しては、既に日本病理学会として指針(「症例報告における患者情報保護に関する指針」、平成13年11月26日)を提示しており、原則として倫理審査の対象としない。
6.病理検体の保管・管理・利用に関する諸問題に関しては、倫理委員会から日本病理学会に問題提起し、会員が認識や見解を共有した後、それを社会に発信し、その反応 を勘案しながら、学会としての見解を公にすべきである。
【倫理委員会における議論と提案】
1.「病理臓器」は病理診断が確定した後に検体由来者や家族などから返却要請があった場合、正当な理由の記載された文書による求めがあれば、返却することとする。
2.病理診断に用いられた「病理標本」は保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年4月30日)に規定される「診療に関する諸記録」と見なすべきであって、一定期間、病院ないし施設で保管の義務を有するものと考えられる。従って、検体由来者や家族などの返却要請があったとしても、必ずしも返却の義務は負わない。ただし、正当な理由の記載された文書による求めがあれば、返却することとする。
3.「病理臓器」、「病理標本」は何れも検体由来者や家族から病院長もしくは施設長が「信託(trust)」を受けており、適正に管理する義務を負うと思慮される。管理責任者である病理医は二者を不適正に(恣意的に)用いることは許されない。
4.信託を受けるには、検体由来者あるいは家族や代諾者から書面による承諾が必要である。
承諾書には、
1) 「病理臓器」は一定期間、ブロックは期間を定めずに保管されること。
2) 医学教育や病理業務の精度管理の他、医学研究にも使用すること。
3) ゲノム遺伝子解析研究に利用する際にはヒトゲノム遺伝子解析研究に関する倫理指針に規定された倫理委員会の審査を別途受けること。
などを明記する。
参考:保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年4月30日)
第九条: 保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。
2009年1月14日
「患者の病理検体(生検・細胞診・手術標本)の取扱い指針」について
本指針は病理検体の取扱い指針について,(社)日本病理学会の提案に基づいて,外科関連学会協議会が策定したものである.
1. 病理検体を精度管理,医学教育,あるいは症例報告を含む学術研究に使用することは医療者にとって本来的業務の一環である.
2. 病理検体は,患者から包括的同意(注1)をとることにより,患者の特定ができない範囲において,精度管理,医学教育あるいは症例報告に使用することができる.
3. 学術研究に関しては,原則として,書面によるインフォームド・コンセントが個人別に必要である.ただし,各医療施設あるいは関連学会の倫理委員会が適正と認める範囲内において,包括的同意でも遂行できる.症例報告については,外科関連学会協議会がすでに発表した指針(注2)を遵守する限り,包括的同意が許される.ヒトゲノム・遺伝子解析研究は三省合同の倫理指針(注3)に従う.
4. 病理診断に用いた顕微鏡標本,パラフィンブロック,写真などは保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年4月30日)に規定される「診療に関する諸記録」であり,当該施設で一定期間,保管・管理するものとする.
5. 病理検体を精度管理,医学教育,あるいは症例報告を含む学術研究に使用する場合,病理医と臨床医は医学の発展のために同等の立場に立って協力し合う.
(注1):"包括的同意"とは,厚生労働省の通達「医療・介護関係事業者における個人情報の適切な取扱いのためのガイドライン」(平成16年12月24日付通達)を参照のこと.
(注2):指針とは,それぞれ日本病理学会「症例報告における患者情報保護に関する指針」(平成13年11月26日),外科関連学会協議会「症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」(平成16年4月6日)を指す.
(注3):三省合同の倫理指針とは,文部科学省,厚生労働省,および経済産業省の三省合同告示の倫理指針(平成16年12月28日付)を指す.
平成17年5月10日
日本病理学会 倫理委員長:井藤久雄
外科関連学会協議会 座長:落合武徳
(加盟学会)
日本外科学会,日本気管食道科学会,日本救急医学会,日本胸部外科学会,日本形成外科学会,日本呼吸器外科学会,日本消化器外科学会,日本小児外科学会,日本心臓血管外科学会,日本大腸肛門病学会,日本内分泌外科学会,日本乳癌学会,日本腹部救急医学会,日本麻酔科学会
本指針に賛同している学会
日本肝胆膵外科学会,日本血管外科学会,日本喉頭科学会,日本呼吸器内視鏡学会,日本食道学会,日本整形外科学会
2005年12月 1日
2005年4月 1日
患者に由来する病理検体の保管・管理・利用に関する日本病理学会倫理委員会の見解
社団法人 日本病理学会 理事会・倫理委員会
病理学は医療の精度管理のみならず、医学研究の促進、医学教育において重要な役割を果たしている。病理部門には細胞診断、生検あるいは手術から得られた検体が保管されている。病理医は高い職業倫理観とプロフェッショナルとしての高度な業務遂行能力を発揮し、これら病理検体を整理・保管し、適切利用に供する責務を有している。
日本病理学会は平成14年度に以下の見解を提示した。
「病理検体の保管は患者の尊厳とプライバシーが保護される形でなされなければならない。これらの配慮は診断書、顕微鏡標本、パラフィン・ブロックあるいは肉眼写真についてもなされる必要がある。
なお、病理組織診断終了後の臓器・組織あるいは顕微鏡標本は患者本人に帰属する。従って、返却を求められた場合は、それに応じる必要がある。」
「生命倫理」や「医の倫理」は時代や社会の変遷により変化するものであるが故に、絶えず検証・評価を重ねる必要がある。このため、日本病理学会倫理委員会では外部委員を加え、検討を重ねた。その結果、現時点における病理医の医療における任務、社会に対する責務を考慮すると、平成14年度見解は必ずしも適切とは見なし得ないとの結論に達した。
現時点では病理検体(細胞診断、生検および手術に由来する検体)の保管・管理・利用に関し、以下の如く思慮される。
「検体由来者である患者やその家族から病理検体の全部あるいはその一部の返還要請があったとしても、正当な利用や適切な管理が担保されない限り、返却・譲与すべきではない。医療機関あるいは病理医としての業務遂行、すなわち病因と病態の解明に支障が生じ、加えて、公序良俗に反する可能性が否定できないからである。」
【日本病理学会倫理委員会における議論の前提】
1.本見解は細胞診断、生検および手術に由来する検体を対象としており、病理解剖から得られた検体には適用しない。
2.病理検体を以下の2群に区分けして議論を進める。
病理臓器:未固定および固定された細胞、組織、臓器であり、病理部門でさらなる加工が加えられていない(凍結ブロックを含む)。なお、病理臓器は感染性廃棄物として取り扱われる。
病理標本:病理部門で加工された全ての標本を含む。これには電子顕微鏡/パラフィン・ブロック、プレパラート、肉眼・顕微鏡写真などを含む。
3.「病理臓器」および「病理標本」を医学教育、病理業務の精度管理あるいは医療監視(medical audit)に利用することは、本来の病理業務であり、目的外使用にあたらないが、社会の理解を得る不断の努力が必要である。
4.病理検体を用いた研究は、日本病理学会理事会が平成12年11月に提示した如く、 その必要性、重要性に鑑み、今後も積極的に促進されるべきである。なお、全ての臨床研究が倫理審査の対象となるが、適切な手続きを経る限り、研究を阻害するものではない。
5.症例報告のあり方に関しては、既に日本病理学会として指針(「症例報告における患者情報保護に関する指針」、平成13年11月26日)を提示しており、原則として倫理審査の対象としない。
6.病理検体の保管・管理・利用に関する諸問題に関しては、倫理委員会から日本病理学会に問題提起し、会員が認識や見解を共有した後、それを社会に発信し、その反応 を勘案しながら、学会としての見解を公にすべきである。
【倫理委員会における議論と日本病理学会への提案】
1.「病理臓器」は病理診断が確定した後に検体由来者や家族などから返却要請があった場合、正当な理由があれば、返却することがありうる。
2.病理診断に用いられた「病理標本」は保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年4月30日)に規定される「診療に関する諸記録」と見なすべきであって、一定期間、病院ないし施設で保管の義務を有するものと考えられる。従って、検体由来者や家族などの返却要請があったとしても、必ずしも返却の義務は負わない。
3.「病理臓器」、「病理標本」は何れも検体由来者や家族から病院長もしくは施設長が「信託(trust)」を受けており、適正に管理する義務を負うと思慮される。管理責任者である病理医は二者を不適正に(恣意的に)用いることは許されない。
4.信託を受けるには、検体由来者あるいは家族や代諾者から書面による承諾が必要である。
承諾書には、
1)「病理臓器」は一定期間、ブロックは半永久的に保管されること。
2)医学教育や病理業務の精度管理の他、医学研究にも使用すること。
3)ゲノム遺伝子解析研究に利用する際にはヒトゲノム遺伝子解析研究に関する倫理指針に規定された倫理委員会の審査を別途受けること。
などを明記する。
参考:保険医療機関及び保険医療養担当規則(昭和32年4月30日)
第九条:保険医療機関は、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録をその完結の日から三年間保存しなければならない。ただし、患者の診療録にあっては、その完結の日から五年間とする。
2005年1月18日
現在における剖検費の試算について
平成17年1月18日
日本病理学会理事長 森 茂郎
日本病理学会医療業務委員長 黒田 誠
日本病理学会剖検・病理技術小委員長 谷山清己
数年来、病理学会の会員の皆様から、剖検費は現在いくらとして考えればよいのかという質問をされており、特に受託解剖をする場合に背景のしっかりとした料金設定が必要であり、早急に対応していただきたいとの要望をいただいておりました。
長きにわたり病理学会として正式に対応しておりませんでしたので、医療業務委員会の剖検・医療技術小委員会で人件費,施設にかかわる経費,剖 検の執刀にかかわる経費,標本作製にかかわる経費,診断にかかわる経費,その他の雑費等を詳細に検討し、1体約25万円という試算をいたしました。これは 卒後10年目の病理医が執刀し、介助と標本作製に臨床検査技師各々1名が担当した場合のモデルケースです。(病理医の労働時間は合計12時間と設定してあ ります。)
内容は以下の如くです。これをもって日本病理学会の私見とさせていただきます。
剖検費用 (一体につき)
項目 | 金額 | ||
1.人件費 医師 | ¥48,163.7 | ||
技師 | ¥18,711.1 | ||
2.遺体収集費(遺族への謝金) | ¥10,000.0 | ||
3.葬祭費(慰霊祭経費) | ¥5,000.0 | ||
4.剖検室使用費および剖検時関連諸経費 | ¥26,318.0 | ||
5.組織標本作製費 | ¥26,472.0 | ||
6.病理解剖特別検査費 | ¥14,076.2 | ||
小計A | ¥148,741.0 | ||
7.剖検診断費 | |||
(保険加算相当点数を参考とした場合) | |||
3臓器 | 880点x3 | ¥26,400.0 | |
細胞診(その他) | 190点x1 | ¥1,900.0 | |
組織診断料 | 255点x1 | ¥2,550.0 | |
検体検査管理加 | 300点x1 | ¥3,000.0 | |
免疫抗体法加算 | 300点x1 | ¥3,000.0 | |
電子顕微鏡加算 | 1200点x1 | ¥12,000.0 | |
組織培養陽性1臓器 | ¥3,010.0 | ||
動脈血培養陽性 | ¥3,896.0 | ||
診療情報提供料 | 520点x1 | ¥5,200.0 | |
小計B | ¥60,956.0 | ||
8.諸費 | |||
報告書作成費 | ¥10,000.0 | ||
光熱水道費 | ¥6,000.0 | ||
標本管理費 | ¥5,000.0 | ||
危険手当(医師,技師) | ¥15,000.0 | ||
剖検室清掃・遺体清拭料 | ¥5,000.0 | ||
小計C | ¥41,000.0 | ||
総計 | ¥250,697.0 |
人件費は国家公務員の給与を基盤に算定していますが、最低基準とお考え下さい。
報告書作成費は剖検診断書に該当し、診療情報提供料は剖検報告書内の臨床経過を含む症例の概略提示に該当すると解釈しています。
なお、遺体搬送費およびCPC等については含まれておりませんので、個々の症例の状況に応じ当事者間で御協議下さい。
また、現在論議されている医療関連死の症例についてはこの限りではありません。
この件につき、お問い合わせのある方は病理学会までお問い合わせ下さい。医療業務委員長が対応させていただきます。