このページでは、Javascriptを使用しています
  • 日本病理学会について
  • 市民の皆さまへ
  • 専門医
  • 病理医への扉
  • 刊行物

HOME > 新着情報 > 病理解剖に国費負担を!


病理解剖に国費負担を!

藤田保健衛生大学医学部第一病理学講座
堤 寛
広島大学大学院医歯薬学総合研究科展開医科学専攻病態情報医科学講座病理学研究室
井内康輝

提言:(社)日本病理学会は病理解剖の国費負担を厚生労働省に要求すべきである。

 病理解剖は従来、費用全額を病院負担の形で営々と積み重ねられ、病態解明、病理学的研究、死因追求、正確な死因統計など、さまざまな側面で国民の医療の 向上に大きく貢献してきた。死後の検索であるため、診療報酬は適応されず、厚生労働省からの財政支援も一切ないのが現状である。数年前まで文部科学省から 国立大学にのみ供出されていた解剖体経費は、研究・教育の名目だった(独立行政法人化を期に、項目指定がなくなり、教育関連費用として、現在、各大学はそ れぞれの考えに従って、病理解剖を含めて分配できる)。医療・公衆衛生に多大な貢献を果たす病理解剖が「病院のボランティア」の形で成り立つのはとても健 常とはいえない。
 先進諸国の中での"剖検率"は最低レベルにあるうえ、画像診断の進歩を背景に、病理解剖は年々減り続けているのが現状である。臨床医の病理解剖に対する意欲の減少は否めないところである。しかし、病理解剖をこれ以上減らし続けても本当によいのだろうか。
 新医師卒後研修制度の中に、病理解剖症例を利用したCPCレポートの作成が必修化されているし、日本内科学会も内科専門医や研修病院の指定に一定の病理解剖を義務化している。病理解剖が病態を全身的・統合的に捉える研修の場として最適であることに異論はなかろう。
 一方、厚生労働省は「診療関連死」の死因究明のための新制度(医療安全調査委員会)を立ち上げようと模索しているが、原則として、病理解剖として行われ た結果を、法医医師、臨床医や第三者が客観的に判断することが念頭に置かれている。この解剖は病理解剖と法医解剖の中間的意義をもつともいえよう。当然な がら、この解剖には財政支援がある。
 法医解剖のうち、司法解剖約5,000体は国が財政保証している。行政解剖(監察医制度のある地域)および承諾解剖(監察医制度のない地域)は、原則と して、地方自治体ないし警察が剖検費用を負担している。しかし、法医医師の人材不足と法医解剖実施の場が大学の法医学講座に限られる現実を背景に、ことに 大都市圏以外の地方では、救命救急部門での死亡例を中心に"行政解剖的病理解剖"が実施されているのも現実である。この場合は、費用は病院負担となってい る。
 こうしたアンバランス・不公平感・不合理を是正し、国民の健康と安全の増進に貢献し、医療の質の担保・向上に資する病理解剖を促進するために、(社)日 本病理学会は、今こそ、病理解剖の費用負担(年間2万体x25万円=50億円)を国家(厚生労働省よりは、より横断的な内閣府が適切か?)に要求すべきで ある。