2007年10月アーカイブ

2007年10月24日

ホルムアルデヒドに対する法律上の取り扱い変更について

病理学会員各位

剖検・病理技術小委員会 谷山 清己
医療業務委員会 根本 則道

はじめに

平成20年3月までには、ホルムアルデヒド(以下 FA)に対する法律(労働安全衛生法)上の取り扱い(特定化学物質等障害予防規則、以下 特化則)が変わることが予測されます。


法改正の理由(FAの有害性に対する措置として)
FAは高濃度長期ばく露により鼻咽頭癌を発生させる発がん性物質です(WHO 2004年)。また、慢性ばく露による有害性には、目、上気道の刺激症状は知られていますが、呼吸粘膜の細胞変性、炎症、過形成、扁平上皮化生など組織学 的変化に対する報告や喘息、アトピ-性皮膚炎にFAが係っているという報告や皮膚感作による接触性皮膚炎の発症例の報告等が見られます。さらに、FAは シックハウス症候群、化学物質過敏症の原因物質の一つとされ、住環境においては厳しく管理されています。 「平成18年度 化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会」において、FAを使用する職種の労働環境調査が行われました。その結果、許容濃度の変更を含 め、法規制の強化の必要性が明らかにされ、平成20年3月を目安に法改正が行われる予定です。(尚、リスク評価検討会では、病理検査はシックハウス症候群 対策が必要な職種の一つに上げられています)。


変更内容
<現状> 
特化則 第3類物質 
大量漏洩に基づく急性障害を防止すべき物質

<変更後>
特化則 第2類物質 
発生源を密閉する装置または局所排気装置等を設け、作業環境気中濃度を一定基準以下に抑制し、慢性的障害を防止すべき物質

<変更後のポイント>
許容濃度 0.5ppmから0.1ppm(日本産業衛生学会 平成19年4月)
管理濃度 未設定から0.1ppm(予定 平成19年9月現在)
作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施など、特化則に準じた対策が必要となります。

現在、FAに係る法規制には特化則の他、「職域における屋内空気中のホルムアルデヒド濃度低減のためのガイドランについて」(平成14年)、「エピクロロ ヒドリン、塩化ベンジル、1.3-ブタジエン、ホルムアルデヒド及び硫酸ジエチルによる労働者の健康障害防止の徹底について」(平成19年)が厚生労働省 より公示されています。これらは、いずれも努力規定であり、罰則規定はありません。しかし、特化則第2類物質になることにより、排気装置の設置の原則、作 業環境測定、特殊健康診断などが義務規定として係ってきます(違反すると罰金または懲役になる場合があります)。


病理検査室におけるFA濃度の参考値(文献より)
・切り出し時、ホルマリン容器の蓋 開放状態 3.5ppm
・切り出し時、隣の立作業者 1ppm
・切り出し時、検査室の中央付近30分の平均濃度 0.4ppm以上
・ホルマリン槽から臓器を取り出した直後 1ppm
・臓器水洗後 0.3ppm
・切り出し後のカメラ撮影 2~4ppm
・切り出し作業後のごみ箱 8ppm
・濾過後のロ-ト上 6ppm
・18リットル缶の蓋が開放 40ppm


結語
従って、蓋が開放されたままのホルマリン放置を厳に禁止するなどのホルマリン管理の徹底が今まで以上に必要となります。現在、さらに詳しい資料を作成中で す。会員各位は、病理部門のみならずそれぞれの施設の中でホルマリンを使用している部署の状況を把握し、必要に応じた処置がとれるよう情報収集を行ってく ださい。


参考文献等
法改正の理由: 「平成18年度 化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会」(厚労省ホームページ)/医療現場の危険有害化学物資取扱い(労働安全管理のために) 清水秀樹著 メディカグローブ出版
許容濃度: 許容濃度等の勧告(2007年度) 日本産業衛生学会誌49巻 P175-180.2007
管理濃度: 「第1回管理濃度等検討会会議次第」 (厚労省ホームページ)
参考値: 試験・研究・分析室における有害物の作業環境管理について 土屋眞知子ほか 病理技術65巻24-27

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