2002年12月アーカイブ

2002年12月11日

新医師臨床研修制度におけるCPCレポート作成に関する指針

平成14年12月11日

(社) 日本病理学会理事長 森茂郎

病理専門医制度運営委員長 長村義之

医療業務委員長 井内康輝


I.CPCレポート作成にあたって


1.CPCレポートに用いる病理解剖症例に関する倫理的課題


平成16年度における新医師臨床研修制度(必修化卒後研修)の導入に伴って、病理解剖症例に基づくCPCレポートの作成と症例呈示がすべての研修医に義務づけられる。このため、病理解剖承諾書の書式を含めて、病理解剖の倫理的課題に十分配慮することを臨床研修病院に徹底する必要がある。これまで、(社)日本病理学会は、病理解剖の倫理的課題に関する提言を行ってきた。この中で、病理解剖承諾書の中に病理解剖標本を学術研究や医学教育に使用することを明記し、文書で承諾を得ることを求めている。研究・教育に使用することへの承諾が得られていない症例は、研修医のCPCレポートの対象とすべきではないことは当然である。


2.CPCレポートにおける患者情報保護


患者の個人情報(プライバシー)の保護は、医療者に課せられた義務である。研修医の作成するCPCレポートにおいても、(社)日本病理学会が発表した「症例報告における患者情報保護に関する指針」に準じて、病理解剖症例の個人情報保護に十分な配慮が払われなければならない。


3.病理解剖における法的問題


病理解剖は、死体解剖保存法に基づいて行われる行為であり、この法律を遵守しなければならない。CPCレポート作成の義務化に伴い、病理解剖について研修医が患者のご遺族に説明し、承諾を得ようとする機会が増えることが予想される。そこで研修医および指導医に対して死体解剖保存法の周知徹底をはかるとともに、法的問題のある症例に対する対処法などについても理解をうる必要がある。こうした観点から、(社)日本病理学会では、これらに関するマニュアルを作成する予定である。


II.CPCの形式


臨床研修指定病院(群)では、定期的なCPCが開催されていることが条件とされている。しかし、研修医が自ら臨床医として診療に関与し、患者のご遺族から病理解剖の許諾を得て、CPCレポートにまとめようとする症例のすべてが、各病院で従来から開かれているCPCの対象として適切であるとは限らない。また、研修医の教育を目的とするCPCについては、必ずしも大学病院等で行なわれてきたCPCと同様の形式である必要はなく、むしろ病院の規模や病理医を含む指導医の人数に合わせて症例検討会の形式で行う方が、研修医にとってより教育効果があげられる可能性もあると考えられる。(社)日本病理学会では、例として、以下の2つの形式を提案したい。各研修病院でのCPCの実施にあたっては、各研修委員会が症例あるいは病院の状況に応じて、これらに準じた形式を検討して選択されることを要望する。


1.教育型CPC


研修委員会が主催し、原則として病院(群)のすべての研修医および指導医が出席する(研修医に一定回数以上の出席を義務づけることが望ましい)。担当研修医が、臨床経過と臨床上の問題点、病理解剖所見とそれに基づく考察を発表し、これに対して、出席者が質問し討議を行う。このような発表と討議をもとに、担当研修医がCPCレポートを作成する。さらに、CPCの指導体制、症例の内容などの実情をふまえて、研修委員会の主導のもと、教育型CPCを簡略化した形で行うことも可能と考える。この場合、出席者は担当研修医、臨床指導医、病理指導医(病理解剖担当医が病理指導医と異なる場合は、病理解剖担当医を含める)とし、担当研修医の役割、討議の進め方については教育型CPCと同様とする。この討議を経て、担当研修医はCPCレポートを作成する。


2.従来型CPC


症例が臨床研修としても適切と判断されれば、従来各病院(群)または各科単位で開催されているCPC形式に準じる形のCPCに提示する。担当研修医が臨床医の立場で臨床経過をまとめて提示し、臨床的問題点を出席者間で討議する。次いで病理医(病理をローテイト中の研修医を含む)が病理解剖所見を提示し、これに基づく討議後に、全体をまとめる。研修医は、この発表・討論内容全体をまとめて、臨床および病理指導医の指導のもとCPCレポートを作成する。


*CPCの開催については、一つの病院単位だけでなく、病院群、あるいは地区単位などで複数病院が集まって開催することも考えられる。この場合、(社)日本病理学会は、支部あるいは地域中核病院が中心となってグループ支援体制をとる。


III.CPCレポートの記載内容


1.CPCレポートには、以下の内容が含まれている必要がある。


(1) 臨床所見のまとめ


(2) 検査データのまとめ


(3) 画像所見のまとめ


(4) 死亡時点での臨床上の疑問点・問題点


(5) 病理解剖所見(全臓器の肉眼所見と組織所見)


(6) 病理解剖診断


(7) 臨床上の疑問点に対する考察ならびに総括


2.上記項目をA4サイズの用紙にワープロで横書きに記載する。


(1) 肉眼所見については、臓器シェーマなどを使用して記載することも可能である。


(2) 臨床経過と臓器障害の進展については、症例の経過をフローチャートにして提示し、


 各臓器の障害の相関性を明らかにするなどの工夫が望まれる。


IV.CPCレポートの作成要領


1.解剖前


1)病理解剖の承諾を得る手続き


(1) 病理解剖の法的制約・手続き・死体解剖保存法については、研修の始めにマニュアルを通読し、十分に理解しておかなければならない。


(2) 患者のご遺族に対する説明方法および内容については、臨床指導医より十分な指導を受け、礼を失しない態度で行うよう注意する。


2)臨床経過の要約の作成


症例の臨床経過の要約は、原則として、各病院で定めた書式に従って記載し、担当病理医に速やかに提出する。可能な限り病理解剖開始前に作成することが望ましい。


3)病理解剖前の担当病理医との討議


臨床経過の要約と臨床的問題点、病理解剖における検索の目的について、的確に説明できるように準備しておく。


2.解剖時


1)担当病理医の述べる肉眼所見を理解し、所定の用紙に的確に記録する。


2)担当病理医の指導のもと、各臓器の肉眼的な正常像、異常像を理解する。


3.解剖終了時


1)肉眼所見に基づく暫定病理解剖診断provisional pathoanatomical diagnosisを、担当病理医のもとで作成する。


2)肉眼所見をもとにして、臨床指導医とともに病理解剖結果を患者のご遺族に適切に説明する。


4.解剖後


1)暫定診断に基づき、臨床上の問題点のうち解決した点・しなかった点を整理する。同時に、病理学的に検索ないし考察を要する問題点を整理する。


2)標本作製のための切り出しに立ち会い、肉眼所見を整理して理解を深めることが望ましい。


5.顕微鏡標本鏡検時


1)担当病理医から顕微鏡所見を加えた病理解剖所見の提示を受ける。


2)担当病理医と討議して、病理診断のまとめを作成する。


 *5は原則として、教育型CPCを対象とする。


6.症例呈示時


1)臨床および病理所見を踏まえたうえで、症例を適切にまとめて呈示する。


(1) 死因、主病変、副病変の整理と、それぞれの関連づけを行う。


(2) 臨床上の反省点や症例から学んだ点を整理する。


2)発表に対して質問を受け、討論する。


7.CPCレポートの提出


1)CPCでの討議内容を踏まえて、臨床指導医および病理指導医の指導のもと、症例についてまとめる。死因、主病変、副病変の整理とそれぞれの関連づけを行うこと、および臨床上の反省点や症例から学んだ点を記述することが大切である。


2)レポート作成にあたっては、患者とご遺族へのプライバシーに十分な配慮を払う。


3)研修医はCPCレポートをCPC終了後すみやかに作成し、1ヶ月以内に研修委員会へ提出する。


V.臨床研修病院に求められること


1.病理解剖例を研修医教育に使用するにあたり、病理解剖承諾書の整備を含めて、倫理的課題の整理を行う。


2.患者のご遺族への説明に関しては、研修指導医用として、研修医に対する指導のガイドラインを作成する。


3.臨床研修医が病理解剖に参加する機会が増えるに当たり、剖検(病理解剖)室のバイオハザード対策をより一層充実させなければならない。


4.CPCの開催にあたり、研修委員会は上記のいずれの形式でCPCを行うのが適切かを検討して決定する。


1)教育型CPCの場合


(1) 研修委員会がCPCオルガナイザー(CPCを行う責任者)を決定する。


(2) CPCオルガナイザーは、CPCの回数、日時、症例などのCPC計画を立案し、研修委員会が決定する。


(3) CPCオルガナイザーは、準備期間を見込んだ時期にCPC担当者に対して期日を連絡し、適当な時期にCPC予定を院内に提示する。


 *簡略化して行う教育型CPCの場合


   (1)研修委員会が、症例によって簡略化したCPCの施行を決定する。


   (2)この場合、CPCオルガナイザーを決定する場合と、臨床指導医、病理指導医の協議のもとで予定を決定する場合が考えられる。


2)従来型CPCの場合


院内にCPC開催を掲示し、すべての研修医が自由に出席できる体制とすることが望ましい。


4.CPCレポート提出のために、各研修医は少なくとも研修終了の3ヶ月前までに病理解剖を経験する必要がある。したがって、臨床研修病院の病理部門では、研修医のCPCレポート提出に合わせて、病理解剖例の標本作製・診断を含めた作業・処理を一定期間内に行うよう、体制を整えなければならない。


5.CPCレポート作成による教育効果をあげるためには、研修医自身が症例に対して、臨床面ばかりでなく病理学的な検討を十分に加える必要があることは言うまでもない。従って各臨床研修病院では、研修医がこれに要する一定期間を病理部門で研修することが出来るような体制を整えることが望ましい。


6.CPCレポートに関しては、臨床指導医と病理指導医が指導医評価を、研修医自身が自己評価を行い、研修医が研修委員会へ提出する。CPCレポートの最終評価は研修委員会が行い、評価責任は病院長が負う。


7.病理部門あるいは研修委員会は、CPCレポートをファイルする責任を負う。


付言


このようなCPCレポート作成・症例呈示を実現するためには、病理専門医のみならず、内科、外科などの臨床各科指導医との協力体制を整えることが必須である。個別の臨床研修病院の研修委員会レベルのみならず、学会レベルでのCPCレポート作成に関する協力体制の整備とコンセンサスの形成が求められる。



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